研究課題
従来、淡蒼球外節の神経細胞は単一な集団だと考えられていたが、近年投射パターンと分子発現によってPrototypic neuron(視床下核、脚内核、黒質に投射をする細胞タイプ 、多くはパルブアルブミン発現細胞)とArkypallidal neuron(線条体のみへ投射をする細胞タイプ)とに分別できることがわかってきた (Fujiyama et al. 2015) 。さらに、線条体から淡蒼球外節への抑制性入力は、古典的な大脳基底核モデルでは間接路細胞が行うとされていたが、ほぼ全ての線条体直接路細胞も淡蒼球外節に軸索側枝を投射することも明らかになった (Kawaguchi et al. 1990; Levesque and Parent 2005; Fujiyama et al. 2011) 。Substance P (SP) は線条体直接路細胞が保有する神経ペプチドであり、neurokinin-1 receptor (NK-1R)に好んで結合することが知られている。そこで、私たちは淡蒼球外節のどのタイプの神経細胞がどのようにSPの影響を受けるのかを調べた。まず、蛍光色素標識した逆行性神経トレーサーを視床下核または線条体へ注入し、67.1%の淡蒼球外節から視床下核へ投射する細胞がNK-1Rを発現することを確認し、NK-1R陽性細胞はPrototypicタイプであることを証明した。次にin vitro whole-cell記録で、SPの投与が48個の淡蒼球外節細胞の内、21個に内向きの電流を引き起こし、この反応は、NK-1Rの阻害剤をバスの細胞外溶液中へ投与すると阻害されることを確認した。このことから、直接路と間接路は独立の経路ではなく、線条体直接路細胞が淡蒼球外節のPrototypic細胞に発現するNK-1Rを介して間接路に影響を及ぼしていることを証明した。
2: おおむね順調に進展している
本実験のはじめに、免疫蛍光染色を用いて淡蒼球外節のNK-1R発現細胞の形態学的性質を調べた。その結果、淡蒼球外節で多くのNK-1R免疫陽性細胞が観察された。一つは大型の細胞でNK-1Rを強く発現しており、同時にcholine acetyltransferase (ChAT)に対して免疫反応を示すタイプであった。このChAT-NK-1R共発現細胞は淡蒼球外節細胞全体の内、 0.17-1.97%という少ない細胞数に過ぎなかった。この時点で、NK-1R免疫陽性をメルクマールにすることは難しいかと思われたが、形態学とin situ hybridizationを駆使して、弱いNK-1R免疫陽性を示すタイプを発見できた (38.9%)。本研究はこの二番目のタイプのNK-1R細胞に焦点を当て、淡蒼球外節のNK-1R細胞がPrototypicとArkypallidalのどちらのタイプであるかを調べることができた。
1) 淡蒼球ニューロンのホールセルパッチクランプ記録により、局所回路を電気生理学的に明らかにする。(分担研究者:苅部、研究協力者:平井、東山)淡蒼球ニューロンの各細胞タイプそれぞれにウイルスベクターを用いてチャネルロドプシンを導入する。各細胞タイプへの光刺激によって誘発される抑制性シナプス電流の記録を行う。GABA作動性シナプス電流を記録した細胞は、Prototypic neuronとArkypallidal neuronとに分別し、各細胞タイプ間の抑制性結合を明らかにする。また、淡蒼球ニューロンは、GABAA受容体とGABAB受容体を発現していることが知られているため、GABAA受容体もしくはGABAB受容体に依存した局所結合の差異が見られるかどうかを観察する。細胞タイプごとの標識については、本研究室ですでに実験に使用されているパルブアルブミン(PV)発現細胞特異的にCreを発現するPV-CreRatを必要に応じて使用する。これにより、細胞種特異的な局所回路の解析がより明確になる。2)淡蒼球ニューロンの組織化学的解析により、形態学的局所回路を明らかにする。(代表研究者:藤山、研究協力者:平井、緒方)上述の記録終了後、スライス標本を固定し、固定したスライスを50μmに再切もしくは透明化処理により組織標本を作製する。バイオサイチンに結合する蛍光ストレプトアビジンにより記録細胞を可視化し、ウイルスベクター標識や他のトレーサーによる逆行性標識、および免疫組織化学を組み合わせて、記録細胞の投射や発現マーカーに基づく細胞種を同定する。1で述べたの電気生理学的解析と統合することで、投射様式の異なるPrototypic neuronとArkypallidal neuronがどのように情報をやりとりし、大脳基底核間接路の働きを調整しているのかを解明する足がかりになることが期待される。
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