海馬CA2は1934年にロレンテ・デノによって発見されたが、微小な領域であると考えられたため解明が遅れていた。研究代表者らにより最近、海馬CA2がこれまで考えられていたより約5倍も大きい領域であることを世界に先駆けて証明された。これにより新CA2領域が出現し、新たな研究潮流が生み出され、現在も、世界中の多くの研究者が新規参入している。またそれらの後続グループの研究により海馬新CA2領域が何らかの形で社会性記憶に重要な役割を持つことも明らかになっている。 本研究課題においては、光遺伝学を用い海馬新CA2を介する社会性記憶の回路基盤と形成・想起メカニズムを解明するために、新CA2領域特異的Creノックインマウスを用いた解析を行った。 これまで海馬新CA2領域が嗅内皮質へ出力しているかどうかは不明であったが、本研究代表者によって世界に先駆けて作成された海馬新CA2領域特異的CreノックインマウスとCre依存性に蛍光タンパク質を発現するアデノ随伴ウイルスおよびガラス微小電極による脳定位注入装置を用いた実験により、海馬新CA2領域の興奮性新CA2神経細胞が嗅内皮質へ軸索を投射しない(出力しない)ことを見出した。また海馬新CA2領域の興奮性新CA2神経細胞が外側中隔へ軸索を投射することを見出した。また既存の技術を用いて、海馬新CA2領域神経細胞の多様性を示す実験データを得ることに成功した。一方で、従来型の実験技術では、出力経路(回路基盤)の多様性を詳細に解析することは困難であった。本研究課題において、海馬新CA2領域の出力経路(回路基盤)の多様性を解析するための遺伝子組換ウイルスを用いた新戦略技術の開発に予備的に成功した。
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