研究課題/領域番号 |
16H03313
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
濱口 伸明 神戸大学, 経済経営研究所, 教授 (70379460)
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研究分担者 |
高橋 百合子 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (30432553)
村上 勇介 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 准教授 (70290921)
桑山 幹夫 神戸大学, 経済経営研究所, リサーチフェロー (80726018)
村上 善道 神戸大学, 経済経営研究所, 特命助教 (50709772)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ポスト新自由主義 / 構造主義 / 政治経済変動 |
研究実績の概要 |
平成28年度はスコーピングスタディ(文献調査と基礎的統計調査)を中心に研究を始動した。ラテンアメリカの発展停滞を招いている要因として,一次産品価格低下や先進国需要の伸び悩み等の外的なもののほかに,ラテンアメリカ固有の構造的なものがあることを理論的に整理するため,ラテンアメリカ構造主義の文献を広範に批判的に検討した。また,28年度中にブラジルでの大統領弾劾,ペルー大統領選挙での保守派の勝利,ベネズエラで政権独裁化など,ポスト新自由主義の不安定な状況を反映した大きな変動が見られた。 5月28日,9月16日,1月8日に研究会を3回開催した。第1回は研究課題の確認と問題意識の共通化について,第2回はスコーピングスタディ(文献調査と基礎的統計調査)の進捗と現地調査の報告を行った。第3回は京都大学で開催した国際シンポジウムの一部として開催し,本研究会の成果を報告するとともに,本研究費から招へいしたブラジル・リオデジャネイロ連邦大学経済学院ジョアン・カルロス・フェラス教授が基調講演と濱口・村上共著論文に対する討論を行った。また,研究成果の一部をラテン・アメリカ政経学会全国大会(11月5日・東京大学)で報告した。濱口と村上は共同研究成果の一部を神戸大学経済経営研究所ディスカッションペーパーとして公開した。また,本研究の活動として行っている国際研究交流の一環として,本研究経費から開催費用の一部を負担し,日本・中国・韓国のラテンアメリカ研究者を集めたKobe Seminar of East Asian Network of Latin American Studies (EANLAS)を開催し,中国と韓国からそれぞれを代表するラテンアメリカ研究者が5名ずつ参加したほか,米国ラテンアメリカ学会の次期会長を含む幹部が出席し充実した研究会となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スコーピングスタディにより,構造主義的分析方法の有効性が明らかになり,ラテンアメリカの発展停滞が,よく言われるようにコモディティ価格の下落等の外的要因や汚職・ポピュリズムを招来しやすい歴史的・政治文化的要因だけから説明できるものではなく,政治経済変動の内的動態が重要であることが明らかになった。本研究では構造問題を世界経済における周辺性と不平等な所得分配の2点に集約する。メキシコは積極的に外国投資を受け入れてグローバルバリューチェーン(GVC)への参加を強め,南米諸国は資源収入から社会支出を強化した。前者はこれにより周辺性の克服を,後者は所得分配の改善を試みた。両方の構造問題をつなぐ課題として技術進歩が重要である。技術進歩がなければGVC参加は低スキルタスクへの特化を進めて,周辺性を強化してしまうし,技術進歩(実質的経済成長)がない社会政策は,いずれ財政的制約に直面して持続不可能となり,「資源の呪い」を発生させる。このようなラテンアメリカの経済的行き詰まりは,「中所得国の罠」の状況を示している。本研究会の作業仮説は以上のようにより具体的になり,基礎的統計調査の水準を超える計量的実証分析の結果がすでに得られており,論文も作成できたことから研究は順調に進呈していると評価できる。現地調査を行ってラテンアメリカで発生した不安定な政治経済変動をつぶさに観察できたことは本研究グループの構想を発展させることに役立ったとも言える。また研究計画では初年度をスコーピングスタディによる準備段階ととらえ,29年度以降に予定していた国際シンポジウムや国際セミナーを初年度から実施することができたことによって,海外研究者を含む多くの研究者と近年のラテンアメリカにおける政治経済変動について意見交換をすることができたことはたいへん有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,「発展のパズル」の多面的構造について概念を明確化し、理解を深めることを目的とし,生産構造変化と競争力、国際市場参入の質、制度と体制の質、国家社会関係変動,構造問題と地域統合,の5つのサブテーマを設けている。今後はスコーピングスタディを基盤にして、各サブテーマを発展させた実証研究を行い、ディスカッションペーパーを作成する。実証研究は計量的実証分析と現地調査を踏まえた質的情報の分析の両方を通じて行う。ディスカッションペーパーとラテンアメリカ諸国等から招聘する研究者の報告を行うワークショップを開催する。ワークショップではサブテーマの間の相互関係と政治経済変動のダイナミクスについて総合的に議論することを目的とする。 本研究計画では,専門的学術論文のほかに,メンバーにより一般読者に成果を普及するため,平成30年度以降に商業出版可能な書籍原稿を作成する。この本は政治学と経済学の研究者の協力の下でLACs の構造問題に焦点を当てながら政治経済変動を包括的に論じるという点で細野・恒川(1986)「ラテンアメリカ機器の構図」(有斐閣)の後継書と位置づけることができるが、そのアプローチはより学融合的であり、新自由主義改革以降最近までの状況をカバーする点で他に類書を見ないものとなる。草稿段階で京都、神戸、東京でセミナーを開催し、他の研究者と意見交換を行う。 さらに,「発展停滞のパズル」に関する地域比較研究を発展させる可能性を検討する。神戸大学において社会科学系部局の研究者が集結して「中所得国の罠」に関す る比較研究をスタートしており、本研究計画を密接に連携させて進めていく。 また京都大学東南アジア研究所の社会科学系研究者との連携も進める予定で ある。
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