研究課題/領域番号 |
16H03320
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
藤倉 良 法政大学, 人間環境学部, 教授 (10274482)
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研究分担者 |
中山 幹康 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (10217945)
武貞 稔彦 法政大学, 人間環境学部, 教授 (20553449)
吉田 秀美 法政大学, 大学院公共政策研究科, 講師 (70524304)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インドネシア / 住民移転 / 移転補償 / セーフガードポリシー |
研究実績の概要 |
インドネシア、コタパンジャンダムの建設によって移転させられた4カ村でヒアリング調査を行った。対象はリアウ州のムアラ・マハット・バル村、マヤン・ポンカイ村、コト・メスジット村、西スマトラ州のタンジュン・パウ村である。 ムアラ・マハット・バル村は移転で村ごと遠隔地に移転したが、移転先の油ヤシのプランテーションで経済的に大きな成果をあげた。ポンカイ村は移転によってマヤン・ポンカイ、ポンカイ・シコマ、ポンカイ・バルの3村に分裂した。そのうちのマヤン・ポンカイは移転村の中で最も成功した。パーム生産がうまく行ったことと、パームの国際価格が好調だったことが原因である。この村は移転村の中で唯一、トランスミグラシで移住したジャワ人と定住し、彼らと友好的かつ競争的に交わった。それにより、文化の交流が進み、村の経済が底上げされた。コト・メスジット村は村ごと移転し、ナマズの養殖加工を行った移転民が経済的に成功した。 インドネシア、サグリンダムの建設によって移転させられた住民に対してアンケート調査を行った。都市部に移転した10世帯のうち6世帯が移転前より農地が縮小したか失っていたが、半数が大幅に所得を伸ばすことに成功した。農村部に移転した51世帯のうち土地なしであったのは移転前に23世帯であったが、移転後には38世帯に増加した。しかし、所得は移転後に大幅に増加していた。都市部に移転した住民も農村部に移転した住民も、移転の満足度は高かった。 アジア開発銀行における住民移転政策の評価を行った。プロジェクト・デザインが変更された場合の移転計画の実態に合わせた改定や、援助以外の事業と重複・隣接する場合の補償の適正な調整などが短期的な課題であり、国内法による補償レベルを援助機関のものに相当するレベルにまで向上させることが長期的な課題であることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インドネシアの移転補償は原則として金銭補償で行われる。本研究対象となったサグリンダムとコタパンジャンダムにおいても水没財産の補償は金銭をもって行われた。世界銀行やOECDなどの国際機関は金銭補償を行うと、農民である移転住民は補償金を浪費してしまうので、土地による補償の方が望ましいとしている。しかし、2ダムの移転住民の調査を行ったところ、金銭を浪費した移転住民は少数であり、多くは生活再建に向けて賢明な投資を行っていることが明らかになった。 また開発途上国に援助プロジェクトを供与する援助機関では、環境の改変、住民移転、先住民への影響など、プロジェクトが及ぼしうる負の影響を可能な限り回避し、回避が困難な場合には最小化するとともに対策を講じるため、セーフガード政策と呼ばれる政策を樹立し、それに基づき環境影響評価、環境管理計画や住民移転計画などを作成実施することを義務付けている。しかし、実際に発生する問題が、現状の政策の内容や実施状況により十分解決されない場合が散見されている。本研究では、アフリカ開発銀行、アジア開発銀行、欧州復興開発銀行、米州開発銀行を中心に、住民移転に関するセーフガード政策が良好に機能していない場合、問題の所在はどこにあるのかを明らかにできた。移転住民が不満を申し立てるのは補償金額が不十分である場合もあるが、それ以外に、ドナーの計画変更や不十分な事前調査など、補償にまつわるもの以外の要因も多くあることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
インドネシアの2ダムについては、直接の現金補償以外に公共財産の補償や公共工事などの間接的な補償が行われている。これらに費やされた金額を追加することで、「真の補償額」を明らかにする。また、個人補償金額が十分ではないと回答したにも関わらず移転に満足している住民に対して、インタビュー調査などをさらに実施し、その理由を明らかにする。 調査対象にスリランカのコトマレダムの移転民の生活再建状況を追加する。同ダムによって移転させられた住民の移転先にはダム近傍の他、同国北西部で実施されたマハウェリ計画により建設された開拓村がある。後者への移転によって、女性が移転前に参加していた相互に援助し合うコミュニティが失われ、社会的な困難に直面していると報告されている。本研究では、現地調査を行うことにより、そうした困難さを軽減できるような移転のありかたを検討する。 本研究を含めこれまで研究代表者らが行ってきた住民移転に関する研究成果は、紛争や気候変動に伴う難民受け入れ体制の整備についても有用な知見となり、また、逆に難民受け入れ体制に係る費用等の知見が住民移転補償に有効な情報となることがわかったので、関係機関との情報交換を行う。
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