研究課題/領域番号 |
16H03329
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山中 弘 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40201842)
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研究分担者 |
岡本 亮輔 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (30747952)
別所 裕介 京都大学, 人文科学研究所, 研究員 (40585650)
安田 慎 帝京大学, 経済学部, 講師 (60711653)
外川 昌彦 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (70325207)
鈴木 涼太郎 獨協大学, 外国語学部, 准教授 (70512896)
門田 岳久 立教大学, 観光学部, 准教授 (90633529)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 聖地 / ツーリズム / 巡礼 / 宗教 / スピリチュアリティ / マーケット / パワースポット / 商品化 |
研究実績の概要 |
問題意識の共有のために5月に研究会を開催し、各分担者は以下のような調査を実施した。第1班はインド、イラン、チベットのそれぞれの調査地で単独で調査を実施した。外川昌彦は、インドの仏教の聖地ブッダガヤでの現地調査を行うとともに、日本の岡倉天心のブッダガヤ訪問の資料を収集するために、デリー市国立公文書館、インド政庁資料室、また、スリランカの大菩提協会本部での資料収集を行った。別所裕介は、中国青海海南チベット自治区興海県に位置する巡礼の聖地ダカル・ペーゾンのペーゾン僧院の僧侶、及び巡礼地周辺で商売を行っている商業民へのインタビュー調査、参与観察を行った。安田慎は、イランのテヘラン市、レイ市、マシュハッド市にあるアースターネ・ゴドゥス、シャ-・アブドゥアズィーム廟における参詣地周辺部における市場・文化財調査を実施した。 第2班の門田岳久は、沖縄の聖地・斎場御嶽、久高島等の沖縄南部で聖域の調査を行った。主な調査対象は、市役所文化財担当、齋場御嶽周辺の土産物店、飲食店、聖域の管理に関わらない周辺住民である。岡本亮輔は、今回はカトリック聖地ボスニア・ヘルツェコビナのメジュゴリエを訪れ、現地の人々に聞き取り調査を行った。 第三班の山中弘は、聖地のツアーを積極的に企画しているクラブツーリズムという旅行業者に聞き取りを行った。また、長崎のカトリック教会群の動きの中で、平戸市根獅子を訪れ聞き取り調査を行うとともに、外海の潜伏キリシタン記念館、および長崎市の巡礼センターを訪れ、担当者の聞き取りを行った。鈴木涼太郎は、旅行会社がどの程度、パワースポットを旅行パッケージに組み込んでいるのかを主にHPの分析を通じて明らかにするとともに、現地調査として出雲大社を訪れ、聞き取りを行った。また、宗教とツーリズムに関する事例と問題意識を深めるために、7月と12月に分担者以外の研究者も招いて、研究会も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題を進めるにあたって、目的に従って3つの班に研究チームを分けたので、それぞれの班ごとの進捗状況について報告したい。まず第1班は、インド、チベット、イランという海外調査であるが、チベットについては非常に順調に調査が行われており、とりわけ巡礼地沿いに商売をしている人々の数多くの聞き取りができたのは有益であった。イランについては、イスラーム革命の中心地で反米意識も高く、かつ経済制裁の影響もあって聖者廟をめぐるツーリズムの展開を調査することはなかなか難しいことがわかった。また、アメリカとの関係悪化の可能性もあり、場合によってはエジプトに調査地を変更せざるを得ない可能性も出てきている。また、ブッダガヤの調査については歴史的な文献調査はかなり進んだものの、本科研の研究課題の中心にあるマーケットの問題についてはもう少し研究を前進させる必要がある。第二班はおおむね順調に調査を進めている。当初の計画では国内のパワースポットの調査を想定していたが、新興のカトリックの聖地を調査できたことで従来のものとはかなり異なる新しいタイプの聖地を視野に入れた研究を行うことができたのは本課題にとっては幸いであった。第三班の課題の中で理論的な観点からの深化については、山中を中心に宗教学会、観光学術学会などでの発表と様々な意見交換を通じてある程度進展が見られたと考えている。また、長崎での調査においては、偶然にも、外海に新たな民間の潜伏期の資料を展示する記念館のオープンが行われ、関係者に貴重な聞き取りと資料の見学が可能になった。また、世界遺産化を巡って教会の推進する巡礼ツアーと長崎市を中心とした観光サイドからツアーとの関係が複雑化していることを観察でき、今後に向けた重要な研究課題の発見があったと考えている。全体としては、研究課題に即して前進していると思っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題はスピリチュアル・マーケットという先進産業化社会において生じている新たな宗教意識とツーリズムとの関わりを論じようとするものであるが、今後のこの課題の推進方策については、第1班が担当している地域の調査をどのような方向性ですすめるのかについては若干の研究対象の変更ないし調整が必要になってきたようにも感じている。すなわち、仏教の聖地ブッダガヤが現在の聖地性を獲得するに至るまでの歴史的状況は担当者の努力によってかなり明らかになってきたものの、その場所を資源としたツーリズムとの関わりとなると、まだ十分な調査ターゲットが絞り切れていないことが今後の研究の課題解明においては注意しなければならないことのように思われる。チベットについては担当者の地道な調査によって課題の解明に進んでいるが、当初想定していた中国本土の華人集団とチベット仏教の僧院との関わりとなると、まだ十分に特定の集団に絞り込めておらず、早急にこの課題を詰めることが必要であると考えている。さらに、イランの聖者廟の場合には、ツーリズムとの関わりを考える調査ターゲットがまだ十分に絞り込めていないことが問題として意識され始めている。ただ、この点は、先にも触れたように、イラン情勢の変化によって調査地をエジプトに移さざるを得ない可能性もあり、検討を要する課題でもある。ただ、イランに比べてエジプト、特にカイロはツーリズムが盛んな場所であるので、かえって課題を前進させる足がかりを発見できるかもしれない。 そのほかの二つの班の研究・調査についてはこれまでのところ順調に進んでおり、第1班の問題を解決しながら、さらに課題の進捗をはかっていきたいと考えている。現在考えている推進方策としては、各班の情報の共有をさらに密にして、課題全体の深化を図りたいと考えている。
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