研究課題/領域番号 |
16H03365
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 純 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10251331)
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研究分担者 |
長木 誠司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50292842)
内野 儀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40168711)
高橋 宗五 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10134404)
一條 麻美子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30213987)
清水 晶子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40361589)
林 少陽 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20376578)
桑田 光平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80570639)
森元 庸介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70637066)
乗松 亨平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40588711)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リアリズム / 社会主義リアリズム / 写実 / マジックリアリズム / リアリティ / ミメーシス / 現実性 |
研究実績の概要 |
本年度は、リアリズム概念の歴史的分析というテーマについて研究を行なった。サブテーマごとの研究内容は次の通り。 1)文学・芸術におけるリアリズムの系譜学:1.M・ポワヴェール氏による講演「写真におけるリアリズムの問題」やK・クルディ氏の講演「3・11以後の見えない現実をドキュメンタリーでいかに表現するか」、ワークショップ「リアリズムあるいは映画の夢と目醒め」により、写真や映画におけるリアリズム概念の系譜を批判的にたどり、そのリアリティを支える機制を多面的に探った。2.B・グロイス氏を招いて共催したシンポジウム「『アート・パワー』をめぐって」において、現代社会における政治的リアリティとアートとの関係について討議した。3.後小路雅弘氏による講演「東南アジアにおける「美術」の誕生とリアリズム」を開催し、「美術」概念とリアリズム表現の歴史的関係性について議論を深めた。4.現代中国文学におけるマジックリアリズムなどを含め、20世紀以降の前衛文学の試みを「新しいリアリズム」の構築という視点から系譜学的に再検討したほか、ジャンル・フィクションにおいて「リアリズム」を成立させる排除の構造を検討した。5.音楽および演劇におけるリアリズム概念についての歴史的検証を進めた。6.漢字圏における「写実」の系譜を西洋由来の「リアリズム」との緊張関係のうちに分析した。 2)社会主義リアリズムの国際比較:シンポジウム「社会主義リアリズムの国際比較」を開催し、社会主義リアリズムの制度と実践をめぐり、ソ連、中国、ユーゴスラヴィアの比較を行なった。 3)リアリティ/リアリズム概念の思想史的再検討:1.ラテン語のres の意味論的重層性を検証するとともに、ジャック・ラカン固有の現実批判=リアリズムに関する思想的検討を進めた。2.ヨーロッパ中世の「リアリズム」を幅広く捉え直すことにより、「ミメーシス」の理論を再検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
B・グロイス氏を招聘して実現した現代アートに関するシンポジウムのほか、現代美術を専門とする連携研究者・加治屋健司氏によって企画された後小路雅弘氏による東南アジア美術をめぐる講演などの機会により、当初計画していた以上に、美術におけるリアリズム概念の再検討を格段に深めることができた。連携研究者を中心とした映画のリアリズムについてのワークショップほか、映画や写真に関する本研究のテーマの考察を進める機会も数多くもつことができ、このジャンルにおける研究もまた当初の計画よりもいっそうの進展を見ている。社会主義リアリズムの国際比較に関しても、このテーマによるシンポジウムを開いて、活発な討論を通じ、歴史的検討を着実に展開している。研究代表者および分担者がそれぞれ担当している文学・音楽・演劇および思想史的なリアリズム概念の再検討については、研究上の情報を交換し合いながら順調に進んでおり、次年度以降にシンポジウムやワークショップのかたちでその成果の相互比較をより深めるための準備が十分に整っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度の歴史的分析を踏まえ、リアリティ効果の技法というテーマについて研究を行なう。その際、今年度に当初計画以上に進展した美術の分野の研究を引き続き強化していく。具体的テーマは次の通り。 1)リアリズムにおける「現実効果」の諸相:1.フィクション論、物語論、メディア技術論などにおいて理論的参照項となってきたロラン・バルトの「現実効果」論がもつ現代的射程を探る。2.インデックス的転写を意味と結びつけるシステムとして、19 世紀リアリズム小説を再考する。3.日本の言文一致と中国の白話文を文学におけるリアリズムの問題ととらえ、そこに潜む形而上学的な音声中心主義的再現=表象観について分析する。4.絵画における写真的リアリティ追求としての新即物主義を、リアリズムの回帰という時代環境のもとに考察する。5.現代美術において展開されているリアリズム表現を世界的な展望のもとで技法論の観点から比較して考察する。 2)演劇・オペラ・映画におけるリアリズムの技法分析:1.演劇における技術論としての演技論について、身体論から主体論にまで広範に亘る理論的領野を眺望した再検討を行なう。2.1960 年代以降のオペラ演出がどのようなリアリティを確保しているのかを、演劇分野と連携しつつ分析する。3.モンタージュとワン・ショット=ワン・シークエンスという二つの原理の拮抗と協働に注目した作品分析を通じ、映画におけるリアリズムを技法の側面から検討する。 3)反転したリアリズムとしてのユートピアの表象:1.フェミニスト・ユートピア小説からゲイ・ユートピア論考にまで続くユートピア表象が、所与の「リアリティ」を構成するどのような排除をノスタルジックに肯定しているのかを分析する。2.中世以降の時代がフィクショナルな世界として提示した中世主義/趣味と呼ばれる芸術作品の中に反転した同時代的リアリティを見る可能性を検討する。
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