研究課題/領域番号 |
16H03373
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桑木野 幸司 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (30609441)
|
研究分担者 |
水野 千依 青山学院大学, 文学部, 教授 (40330055)
渡辺 浩司 大阪大学, 文学研究科, 助教 (50263182)
林 千宏 亜細亜大学, 経営学部, 准教授 (80549551)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 記憶術 / エクフラシス / 建築 / 百科全書 / チトリーニ |
研究実績の概要 |
4年の研究実施期間の初年にあたる本年度は、研究分担者・強力者たちとの連携組織作りを念頭におきつつ、一次資料の分析と論文の執筆も行なった。具体的には、十六世紀イタリアの百科全書的知性を代表する著作家アレッサンドロ・チトリーニに注目し、彼の主著『ティポコスミア』(Tipocosmia)(1561年)を詳細に分析した。 チトリーニは、記憶術の泰斗として当時のヨーロッパで名声を博したジューリオ・カミッロの弟子とされる人物であり、『ティポコスミア』は、その高名な師の遺稿の内容を無断で転用し、アレンジを加えて世に発表したものとされてきた。しかしながら本書とカミッロの記憶術思想とをつぶさに比較してみるならば、両者のあいだには、知の伝達におけるオープン性という点で、大きな隔たりがあることがわかる。そこで本研究ではチトリーニ独自の知の分類・保管思想を剔抉することを試みた。 『ティポコスミア』は、聖書の創世の七日間のスキームを、百科全書的な万象知の情報分類に適用した著作であり、建築的な分類フレームのうえにデータを盛り付けてゆくその手法は、記憶術の応用であることが分かる。とくに第七章、すなわち創世の七日目に読者に提示されるプラネタリウム=ジオラマ風の架空の視覚装置は、テクストとイメージと建築の創造的融合という本科研課題の中心テーマを考察する上では、最適の事例である。この装置を、エクフラシスや記憶術、同時代の百科全書的思潮などと丁寧に比較分析することにより、本研究では、チトリーニの思想に秘められた創造的仮想データベースの本質を剔抉することに成功した。 その成果とあわせて、研究分担・協力者らによる一年間の成果を発表するシンポジウムを3月12日に開催し多数の聴衆を集めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である本年は、研究課題に関連する基礎文献の整備、ならびにOA機器を中心とする研究環境の整備を重点的に行なった。研究に関しては、初年度の目標であった、A. Citoliniの『Tipocosmia』の分析が予想以上に進展し、新たな発見があった。その成果を論文とシンポジウム発表の双方で行うことができた点は、評価に値すると考える。また、研究協力者との共同研究についても進展があり、初期近代イタリアにおける都市のテクスト描写の伝統について、ラテン語の一次資料を丹念に読み込む作業をメンバー間で行い、一定の成果があった。その成果の一部は、2017年3月に開催したシンポジウムにて、研究協力者に発表してもらうことができた。 反省点としては、研究分担者との連携が予想したほどには進まず、本年度は各自が個別に研究を進めるかたちとなった。また、研究代表者自身の研究成果についても、とりあえずは日本語でのアウトプットにとどまった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、昨年度の反省点をふまえて、以下の点を重点的にすすめる。一つには、申請者の昨年度の研究成果を、英語もしくはイタリア語でアウトプットすることである。これについての具体的方策としては、現在、オスロ大学のミュージアム史研究家Mattias Ekman氏との国際共同プロジェクト立ち上げの計画が進展しており、その計画において来年度以降複数回開催されるシンポジウムにて、複数回の英語発表を行い、またその成果を論文集への英語寄稿論文としてまとめる予定である。同プロジェクトには初期近代科学思想史の世界的権威であるPaula Findlen氏や、記憶術研究の同じく世界的権威であるLina Bolzoni氏の参画も計画されており、こうした機会での成果発表は大きな国際的インパクトを持つものと期待される。 また、昨年度は研究分担者との連携がさほどすすまなかった点を反省し、研究会の開催頻度を増加させるなどの対策を採る。この点について、昨年度まで関東の大学に勤めていた研究分担者が、本年度から本学への移動となったため、状況が大幅に改善されることが期待される。また、海外の研究協力者を招待し、日本で国際シンポジウムを開催する準備を、本年度の後半にすすめてゆく予定である。 研究テーマとしては、昨年度に集中的に分析した『Tipocosmia』の分析精度をさらに上げてゆく。具体的には、Rudolf Agricolaの弁証術=修辞学著作のラテン語原初を読み込む。さらに初期近代のギリシア語およびラテン語の新たな一次資料を分析し、新作論文の構想を練る予定である。
|