研究課題/領域番号 |
16H03379
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館 |
研究代表者 |
川村 佳男 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 主任研究員 (80419887)
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研究分担者 |
赤沼 潔 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (30267687)
和田 浩 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (60332136)
矢野 賀一 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 主任研究員 (60392544)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中国考古学 / 金属工芸史 / 極薄青銅器 / 響銅 / 製作痕 / 蛍光X線元素分析 / 製作・加工実験 |
研究実績の概要 |
戦国時代(紀元前5世紀)以降の中国で急速に普及していった厚さ1㎜に満たない青銅製容器「極薄青銅器」、および南北朝時代(5世紀)以降に流行した薄作りの青銅器「響銅」は、いずれも表面を鎚で敲きのばしたり、削ることによって薄さを実現している。響銅はさらに表面を轆轤で挽く、という方法がこれに加わる。つまり、両者とも鍛造による変形加工が可能な粘性と、工具の刃が表面にめりこまない硬度とを自在に調節することで薄く作りあげている。本研究はこの複雑な薄造りの技術について(1)熟覧調査、(2)三次元計測機・蛍光X線元素分析装置など光学機器による分析、(3)製作・加工実験などの多角的な方法によって実態を明らかにする。同時に、極薄青銅器と響銅とのあいだで、製作技術の異同を比較検討することで、中国金属工芸史における系統的な位置づけを試みる。 平成29年度のおもな実績は(1)~(3)の通りである。 (1)【熟覧調査】 東京国立博物館、中国の江蘇省・山西省・陝西省・四川省・重慶市・貴州省などの博物館が所蔵する極薄青銅器および響銅の熟覧調査を行った。熟覧の結果、鋳造・鍛造・きさげ・轆轤引き・鑞付けなどによる各種痕跡を多数認めた。また、極薄青銅器の成形は鋳造ないし鍛造のいずれかで行う一方、響銅の場合は鍛造に限られることを確認した。 (2)【光学機器による調査】 東京国立博物館で元素別デジタルマッピング機能をもつ蛍光X線分析装置による計測も実施した。その結果、青銅器の表面に鍍銀を施したと思われた箇所があらかじめ鍍金した後に鍍銀を重ねる処理を行っていたことを明らかにした。 (3)【製作・加工実験】 東京藝術大学では、鋳造した板状サンプルに熱間鍛造による湾曲加工を施す実験を行った。何枚もの板状サンプルを積み重ねた状態で鍛打すると熱が冷めにくく、地金の粘性を保持した状態でより確実かつ効率的に製作できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科学研究費助成事業3年計画の2年目である平成29年度は、国内外の多くの博物館などで予定していた極薄青銅器と響銅の製作技法について幅広い調査を実施し、両者の共通点や違いを明らかにすることができた。学会や論文での発表こそなかったが、成果発表の場として次年度に計画している九州国立博物館での展示やシンポジウムの実施に向けて必要な準備がおおむね順調に整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
(1)【熟覧調査】 引き続き東京国立博物館や中国四川省の成都博物館などが所蔵する極薄青銅器と響銅に対して、熟覧調査を実施する。とくに同一個体のなかに占める薄さの相対的な差異と、それぞれの部位に認められる製作痕との関連性を重視した調査を行う。 (2)【光学機器による調査】 九州国立博物館でCTスキャンと三次元計測機による計測を行い、極薄青銅器および響銅の表面と内部に認められる製作・加工の痕跡から製作技法を明らかにする。 (3)【製作・加工実験】 東京藝術大学で銅と錫の比率を変えながら鋳造した円盤型のサンプルを鍛打によって湾曲させ、響銅の一種・鋺を作る実験を行う。銅と錫の比率とともに、熱間鍛造時における温度変化も計測することで、温度変化が鍛造の成否に及ぼす影響を観察する。
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