研究課題/領域番号 |
16H03384
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
中橋 克成 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (60309044)
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研究分担者 |
富田 直秀 京都大学, 工学研究科, 教授 (50263140)
藤田 一郎 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (60181351)
小島 徳朗 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70548263)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 洞窟壁画 / 奥行き / 彫刻空間 / 絵画空間 / マチスの切り絵制作 |
研究実績の概要 |
「奥行き」研究の次年度として、原始的・根源的奥行き知覚の調査、研究を行なった。前半は、先史美術の特に洞窟壁画の研究で知られる五十嵐ジャンヌ氏に特別授業を依頼し、洞窟実見に際しての具体的な知識や問題点を拾った。そこで得た知見に基づき洞窟の中の環境から想定される壁画制作の幾つかの実験的な制作課題を考案し制作を行なった。移動する光源と凹凸のある壁面の関係、ともしびの範囲のなかでの記憶による描画、その際に使われたであろう描画材料の考察を兼ねた制作も行なった。こうした洞窟研修を見据えた研究を行った後、フランス中部べゼール河流域の洞窟群、並びにピレネー山脈の麓にある洞窟群の現地調査となった。到着当初は、五十嵐ジャンヌ氏の同行もあり、現地での不自由な交通手段の確保や現地調査についての綿密なアドバイスを頂いた。その過程及び結果は、平成30年度の京都芸大の紀要に詳述している。 また、洞窟から洞窟までの移動の折に訪れた幾つかののロマネスク教会での音響、広い石造りの建築空間、そして、そこに集う人々の心の有り様は、特に響きの良い洞窟空間でより多く観察できる動物壁画と相まって、その神聖なるものへの人々の共通性について考えることとなった。 研修の後半は、南仏のヴァンスおよびニースにて、マチスの晩年の切り絵制作及びマチス教会を見学し、昨年度後半はそのマチスが行なった切り絵の空間性についての研究をすることとなった。理由としては、平面的な切り絵でありながら、彫刻としての奥行きを持ったフォルムが立ち現れるところにあり、この切り絵の中に、絵画としてのの奥行きと彫刻の奥行きの二つの問題を解く鍵が同時に内在していることに注目したからである。切り絵の模写から始まり、実際にモデルを呼んで、ポーズを取らせてみて、その制作に際してのマチスの意識の検証と実際の鋏の動かし方などを検証した。この研究活動も京都芸大紀要に詳述している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ラスコー展が一昨年、日本で開催され、その主要な企画者であり、また研究者である五十嵐ジャンヌ氏と出会い、昨年度は彼女から特別授業を受け、そしてラスコー洞窟にも同行していただいた。氏が推薦される洞窟群を見学し、事前に学習していた研究が意味のあるものとなった。その研修の後半に、マチスの切り絵(ブルーヌード)に出会い、昨年度、後期は、その研究に没頭したが、その結果、ロダン、ブールデル、ジャコメッティ、ブランクーシの空間の発展の推移の理解を深めることになり、想像以上の成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
初源的、根源的奥行き知覚に焦点を当てての考察を進めたが、その成果を基として、再び平面表現と立体表現の西洋と東洋とを比較しながら、研究を進めようとしている。具体的には、特に立体表現の近代における空間性に対する代表的な作家の意識の変化を基盤に、どうして現在のような多面化した複雑な空間を孕む彫刻が生まれてきたのかを推論し、それを研究者全員で検討し妥当かつ普遍性のあるものとして議論を拡げられるようにしたい。一方で、台湾の故宮博物館での実見研修により、東洋の作画から読み取れる思想的背景とその世界観から生まれる絵画空間についての研究をして、西洋絵画と比較検討を行いたい。その検証結果は、次年度の紀要に掲載し、来るべき報告書の基盤をなるように努めたい。
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