研究課題/領域番号 |
16H03384
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
中橋 克成 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (60309044)
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研究分担者 |
富田 直秀 京都大学, 工学研究科, 教授 (50263140)
藤田 一郎 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (60181351)
小島 徳朗 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70548263)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 奥行き / 認知科学 / 彫刻制作 / 絵画制作 / 共通感覚 |
研究実績の概要 |
この研究は、古今東西の美術作品の中に潜む奥行きのあり方を理解するために、研究対象ごとに制作課題を創案し、研究者をも含む10~15名ほどの被験者でその課題制作を行い、その制作結果から「奥行きの感覚」の核心に触れようとする試みである。「奥行きの感覚」の研究の4年目は、総括に向けてこれまで3年間に渉って行った研究活動を見直し、統合的な理論構築の検討を始めた。1「領域毎に異なる奥行き」2「領域をまたがる横断と応用の奥行き」3「原始的・根源的な奥行き」の各研究は実見も加えて、それぞれの分析や成果は蓄積されている。しかし、奥行き知覚の新共通感覚の検証作業に入るためには、それらを統合包括し比較整理する新しい考え方が必要であった。 昨年度はそのための概念設定に着手した。その結果、全ての視覚芸術作品を<フォルムを手掛かりにみる奥行きの感覚>、<配置を手掛かりにみる奥行きの感覚>、<ヴァルールを手掛かりにみる奥行きの感覚>の3つの大きな分類に分け、その上でそれぞれの分類が「形と色」の間のスケールの中での妥当な位置、「正面性と多視点性」の間のスケールでの妥当な位置を与えることにより、3つの分類が範囲を持って何処かに分布するとの概念構築を立てた。これにより、立体、平面表現の違いはもとより、時代や様式、地域の枠を超えて包括的に把握されることになり、如何なる視覚芸術表現もこの分布図の中のどこかに位置付けられ、比較検討できるようになった。これにより成果発表への大きな基盤ができた。 そのほかに昨年度の主な実績として挙げられるのは、日本庭園の空間の造形的な要素と西洋彫刻の造形空間との比較検討、そして、長野県に広がる縄文土器の様々な様式の実見であった。前者は、研究を進めるために考察した課題とその制作結果ならびに評価を昨年度の紀要にて詳述した。後者もそのバリエーションの豊かさについて昨年度の紀要に詳述されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた、様々な視覚芸術の全てを統合し包括する新しい概念により、研究発表する為の基盤は準備されたが、2018年に着手した触覚による芸術領域をその中に包含することは、視覚表現の範囲を超えているために、この研究においては断念せざるを得なかったことを述べておきたい。何れ、触覚芸術表現をも含む大きな概念設定を模索してゆきたいが、本研究の期限内においては、発展的な余地があることを述べて、一旦終了したい。また昨年度、日本庭園を考察するために想定した「人が意図的に造作する屋外の自然とその奥行き」(仮称)は、改めて彫刻領域の中で考察することにし、新たな芸術表現の概念は拡げないこととした。 また本年度、予定し確保していたギャラリーアクアでの展覧会による成果発表は、コロナ禍のために展覧会の準備に予定していた期間とその作業する場所と人員を喪失し、ついに展覧会を断念せざるを得ない状況となってしまった。ただ別枠の事業として芸術資源センターとの共同企画により実質8年間(科研採択以前の研究も含む)の制作課題のアーカイブ化に取り組むことにした。芸術資源センターはかねてより様々な芸術表現のアーカイブ化の事業を進めており、このセンターが蓄積した各種のアーカアイブの手法や技術によって制作課題のデータは将来的な活用と進展が期待できる。したがって、突然の縮小や見直しはあったが、工夫を加え対応をした点で、おおむね順調な推移と評価したい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、5年間の研究成果の発表の年であり、「奥行きの感覚」の研究の総括として、「奥行きの感覚」をテーマにした出版を年度末に企画している。内容としては、本研究の特徴である学術横断的な人材である、芸術分野における異なる領域による複数の実技制作者、そして西洋美術や東洋美術を専門とする美術史、美学の複数の研究者、加えて認知科学や医療工学や宇宙物理学の研究者による幅広い研究分野からの7本の論考を考えている。さらに外部からの研究協力者であるフランスの先史美術の専門家、日本庭園の造園家、縄文土器の博物館の研究者などによる4本の寄稿も予定している。制作の実感と科学的研究の裏付けを伴った、かつてない論述集にしたい。さらに本研究の思考の母体となった8年間の制作の中からよりすぐった10本ほどの制作課題も併せて紹介し、課題の発想から制作の順序と組み立て、そして制作の中に期待されているしくみの紹介と評価軸も加える。美術に興味のある読者や教育に携わる指導者が試みたくなるような魅力的な課題実例も含む、わかりやすい美術の入門書を発行する予定である。現在はその執筆中であり、9月ごろには一旦纏まったものを吟味し、より精度の高い内容にするための編集と推敲を重ねる予定にしている。また、別枠の共同企画として芸術資源センターとの協力によって、実質8年間(科研採択以前の研究も含む)の制作課題のアーカイブ化を企画している。科研採択以前に制作された作品の3D技術による立体作品の資料化なども含み、多彩なアーカイブ化が期待される。将来的にはWEB上に公開し、多方面に芸術の情報資源としての活用が期待される。
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