研究課題/領域番号 |
16H03392
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉原 ゆかり 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70249621)
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研究分担者 |
齋藤 一 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20302341)
宮本 陽一郎 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30143340)
南 隆太 東京経済大学, コミュニケーション学部, 教授 (60247575)
渡辺 直紀 武蔵大学, 人文学部, 教授 (80409367)
佐野 正人 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (90248724)
越智 博美 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (90251727)
金 牡蘭 早稲田大学, グローバルエデュケーションセンター, 准教授(任期付) (90732941)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 英米文学 / アジア / 教育 / 文学 / 冷戦 / 植民地支配 / 文化外交 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
8月27日・28日、科研研究集会を開催した。1950年代日本におけるアメリカ研究設立に大きな役割を果たした、George H. Kerrについての講演のため、蘇瑶崇(台湾静宜大学)泉水英計(神奈川大学)を招聘した。吉原、橋本恭子(研究協力者)、森岡ゆかり(同)は、島田謹二、Kerr、台北帝国大学出身者など、日本支配下の台湾で生きたひとびとの、英米文学に関連した戦前・戦後の活動について講演を行った。台湾政治大学・呉佩珍の招聘講演では、日本占領下の上海における日本文化外交と、同時期英米のアジアにおける文化外交のあいだの並行性が 指摘された。本研究代表者・役割分担者・研究協力者をコメンテーターとして、若手ワークショップを開催した。 個別実績 研究代表者:吉原 冷戦期日英米における英米文学教育研究について調査。分担者:宮本 冷戦期に世界輸出されるアメリカのスモールタウンの表象が戦時情報局(OWI)で構築され、戦後のハリウッド映画によって継承されていったプロセスを解明。齋藤 九州帝国大学を卒業後、長崎県や愛知県で教育研究し、1955年のフォークナー長野セミナーにも参加、のちに米国コロンビア大学にも留学したアメリカ文学者、藤井昌子について文献調査。越智 第2次世界大戦後のアメリカ文学について、一次資料を基にした分析。佐野 1945年以降における朝鮮(京城帝国大学など)および中華圏での英語英文学関係者の研究。渡辺 1945年を跨る時期の台湾・朝鮮・日本における高級文化と大衆文化の相互交渉についての調査。金 朝鮮半島の独立以前/以降における、アイルランド作家リアム・オフラハティの受容について調査。南 冷戦期アメリカの文学作品のコミックス化について調査。 研究協力者:橋本 島田謹二の香港大学図書館勤務時代について調査。 森岡 台北帝国大学出身の山根敏子の津田塾専門学校時代について調査。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
George H. Kerr研究の第一人者・蘇瑶崇および、英米文学教育が盛んに行われていた1930-40年代上海における文化外交に詳しい呉佩珍が来日中である好機を生かし、蘇、呉、泉水を招聘した。その結果、1930年代-50年代の台湾・沖縄・日本・アメリカにおける、英米文学教育と現実の政治情勢との相互交渉関係のありかたを、立体的にとらえる視座の基礎が確立された。 研究代表者・研究分担者・研究協力者は、個別に着実な研究成果をあげつつある。緊密な研究連携の結果、個別に行ってきた研究成果を、相互に関連付ける回路が確保されたことを、今年度の成果として特筆したい。越智・宮本・齋藤・吉原は、一次文献調査、米英文学と映画などの大衆文化との相互交渉に関する二次文献調査を通して、1950年代アメリカにおけるアメリカ研究の確立が、アメリカの冷戦文化外交と緊密に結びついており、それが同時代のアジアにおける英米文学教育研究に強い影響を与えていることを明らかにした。南・吉原は、冷戦期に英米文学が盛んにコミックス化されたことと、アメリカの反共政策について成果を共有した。金・佐野・渡辺・吉原は、日本植民地支配下の朝鮮半島で英米文学教育研究に携わったひとびとの、1945年以降における動向につき成果を共有した。橋本・吉原は、日本支配下の香港における英米文学教育の意義について、島田謹二研究を通して成果を共有した。森岡・吉原は、内地では大学教育を受けることが制限されていた女性が、台北帝国大学で英米文学教育を受けていることの意義をジェンダーの視点から考察した。 本研究は、当初計画を柔軟に調整・高成果を達成、研究代表者・分担者・協力者の個別研究推進と同時に、研究全体としての有機的総合的ヴィジョンを獲得しつつあるという点において、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者:吉原 アジアにおけるアメリカ研究の成立とアメリカの文化外交に関する調査を拡大し、イギリス文化外交におけるシェイクスピアの機能を視野に含めた調査を行う。冷戦期アメリカ高等教育におけるクリエイティヴ・ライティングの創成とそれに関与したアジア出身者の動向について調査する。研究協力者・宮本と協力して、戦前から冷戦期にいたる、英米文学者・画家を含むアジア知識人とアメリカ文化政策との関係を研究する。研究協力者・橋本と協力して、島田謹二の全体像を研究する。海外研究協力者・森岡と協力して、1945年以前に台湾で教育に従事あるいは教育を受けた人々の、日本への引き上げ以降の動向をさぐる。 研究分担者:齋藤は北海道、沖縄、小笠原などの日本国民国家の<辺境>における英語教育・英米文学の研究を行い、沖縄でアメリカ占領下における英米文学教育について調査する。越智はアメリカとアジアの英米文学教育分野における人的交流の研究を担当する。アメリカで、フルブライト資金、ガリオア資金、ロックフェラー財団関係資料調査を行う。南は、英語圏におけるアジア系のマンガ家による英文学のキャノンのマンガ化について、調査研究を行う。佐野は朝鮮および中国語圏における、戦後のアイデンティティと歴史意識の形成において英語英文学および大衆文化メディア(映画など)の果たした役割と相互交渉を研究する。渡辺は、韓国の英文学研究史に関する韓国語資料の調査研究を行い、西洋文学理論の植民地朝鮮半島・台湾における受容の比較対照研究を行う。金は、朝鮮半島、台湾、中国、「内地」におけるアイルランド文芸受容の比較対照研究を行い、脱植民地運動やプロレタリア文化運動・農民文学との関連性を研究する。 個々の研究成果を総合的にとらえる視座の獲得を目指し、アジアにおける英米文学教育をめぐるポリティックスに関する国際研究集会を筑波大学文京校舎で開催する。
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