研究課題/領域番号 |
16H03392
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉原 ゆかり 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70249621)
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研究分担者 |
齋藤 一 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20302341)
南 隆太 東京経済大学, コミュニケーション学部, 教授 (60247575)
渡辺 直紀 武蔵大学, 人文学部, 教授 (80409367)
佐野 正人 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (90248724)
越智 博美 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (90251727)
金 牡蘭 早稲田大学, 総合研究機構 韓国学研究所, 招聘研究員 (90732941)
宮本 陽一郎 放送大学, 教養学部, 教授 (30143340)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 英米文学 / アジア / 冷戦 / 植民地主義 / 文化外交 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
8月「アメリカ問題、東アジア冷戦文化研究の現状と課題」(於・韓国成均館大学)、2019年3月アメリカ、フィリピン、台湾研究者を招聘して、文学創作と冷戦に関する講演会(於・筑波大学)を開催した。宮本はシミュラクルとしてのアメリカン・スモールタウンの形成過程について、アイオワ州アイオワシティーおよびウォルト・ディズニーが幼少期を過ごしたミズーリ州マーセリンについて資料収集を行うとともに、これと日本の作家・研究者の残したテクストとの関わりについて考察した。越智は英米文学研究分野の人的交流について研究を進めた。アジア財団の資料を所蔵するHoover Instituteで資料収集を行った。前年度までの成果を“Translations of American Cultural Politics into the Context of Post War Japan.”としてハンドブックに一章を寄稿した。齋藤は、1945年8月に広島市で入市被曝した英文学者・詩人・編集者の大原三八雄による詩論、特に広島県福山市在住の詩人である木下夕爾の田園詩を、原爆や核実験といった当事者にとっては表象困難な対象を「負」として表現するという美学の実践として読む議論を、資料調査をしつつ検討した。金は朝鮮半島の解放期における左・右派の演劇人および演劇団体の活動を調査した。佐野は1945年以降、解放後の韓国においてUSISが大衆メディアにおいて(特に映画製作において)果たした役割について調査し、解放後の韓国のアイデンティティ形成において、大衆メディアの果たした役割について研究した。崔載瑞らの英文学者たちがそれに際して果たした役割や態度についても調査を行った。南はポピュラー・カルチャーとシェイクスピアに関する研究を行った。渡辺は1945年を跨る時期の台湾・朝鮮・日本における高級文化と大衆文化の相互交渉を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
構成メンバーの研究連携がさらに深められ、貴重資料の共同調査・研究の方法論が確立されたことにより、個別に行ってきた研究成果を統合化する見込みをつけることができた。2回の国際研究集会によって、韓国、フィリピン、台湾、アメリカの研究者との国際的ネットワークが飛躍的に拡大された。 時期的には、当初は1945年前後から冷戦前期までを研究対象として予定していたが、1961年日米文化教育交流会議以降の、冷戦後期-冷戦崩壊後-現在にいたるまでの期間を網羅する研究の視座を獲得しつつある。 1945年以前に日本の植民地支配下におかれた国・地域における、日本からの解放以降の英語英米文学教育・英米演劇実践が、反共親英米知識人育成のための文化冷戦の場でもあったために生じた亀裂や矛盾について、本科研構成員以外からの協力を得つつ、さらに細緻な調査・研究を進めつつある。 すでに存在する英米文学作品が文化冷戦で果たした役割のみならず、アイオワ大学やスタンフォード大学で、アジア出身の作家が英語で創作するための教育を受けた、文学創作教育が、反共親英米知識人育成の場として機能していたことが確認されたことも、大きな発展である。 当初は、教育機関における公的英米文学教育研究を主眼とする予定であったが、より広い社会的文化装置、すなわち映画、演劇、文壇、映画製作者、コミックス産業、英米文学翻訳・アジア文学英語訳に関係した機関・出版社、国立国会図書館、UNESCO、文化自由会議、国際PENクラブ、ロックフェラー財団やフォード財団、アメリカ国務省、国際文化振興会、アジア財団などが、公教育と複雑に交渉を行いつつ、英米文学教育を構成していったさまが明らかになりつつある。アーカイヴ・リサーチによる貴重な一次文献の収集整理と、理論化の洗練を両輪として遂行されつつある本研究課題は、当初予期したものを大幅に超える進捗を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年3月、国際研究集会を開催する。本研究参加者に韓国、フィリピン、アメリカからの寄稿を得て、日本語論文集を刊行する。越智・齋藤・吉原は、非英語圏における英米文学教育をテーマとする論文集に英語論文を寄稿する。吉原は上述書およびアジアにおける『ロビンソン・クルーソー』受容をめぐる論文集を編集する。齋藤はイギリスの詩人で文化冷戦に深く関わったStephen Spenderと、日本の英米文学者との関わりについての調査・研究を拡大する。越智はアメリカとアジアの英米文学教育分野における人的交流の研究を担当する。アメリカで、フルブライト資金、ガリオア資金、ロックフェラー財団関係資料調査を行い、石井桃子や坂西志保などと米日人物交流との関係について研究する。金は、朝鮮半島、台湾、中国、「内地」におけるアイルランド文芸受容の比較対照研究を行い、脱植民地運動やプロレタリア文化運動・農民文学との関連性を研究する。宮本は、日本人の作家・研究者が残した滞在記・小説を、合衆国のスモールタウン表象史のなかに位置付ける論文を執筆する。佐野は1945年以降における韓国におけるアメリカとの交渉や影響関係について調査し、戦後韓国のアイデンティティと歴史意識の形成において英語英文学および大衆文化メディア(映画など)の果たした役割と相互交渉を研究する。南は、ポピュラー・カルチャーと英米文学研究との関係についての調査を続行しつつ、冷戦期にシェイクスピア研究で英米に留学した日本人研究者についての調査を行う。渡辺は、韓国の英文学研究史に関する韓国語資料の調査研究を行い、西洋文学理論の植民地朝鮮半島・台湾における受容の比較対照研究を行う。吉原は、対アジア文化外交におけるシェイクスピアの機能に関する調査、アジア文学の英語翻訳・英語文学のアジア言語訳や文学創作教育が文化冷戦において果たした役割について調査を行う。
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