研究課題
過去3年間検討を重ねてきた定型韻文の変容の考察の一環として、研究分担者のシモン=及川が、20世紀の民衆詩人・シャンソン作者のジャック・プレヴェールを取り上げ、研究集会を組織し論集を編んだ。そこでこの詩人のコラージュ手法や民衆演劇との親近性と並んで、彼の詩の歌唱的側面が検討された。ランボーやヴェルレーヌにおいても定型を崩した韻文詩がシャンソンに近づく現象が見られたが、プレヴェールはより大衆に浸透した歌謡の形でその伝統を継承発展させたとも言える。そこにはシャンソンの歌詞にふさわしい平明さが大いに与っているが、それはランボーの詩が単純な形式と裏腹の難解さをはらんでいたのと対照的である。研究代表者を中心に、定型韻文の変質の検討の一環として、定型詩の翻訳の問題を検討した。ボードレールやランボーの定型韻文を日本語に訳す際に、原詩の韻律(音楽性)をどのような形で保存ないし再創造できるか、また逆に、和歌や俳句、あるいは北原白秋や萩原朔太郎の律動の強い詩をフランス語に訳すときにどのような問題が提起されるかについて、フランス人の日本詩翻訳者とともに検討する機会を持った。明治の訳者は欧米の定型詩を5音と7音の鋳型に機械的には嵌め込もうとしたが、たちまち行き詰まった。同様の事情は日本詩の仏訳の際にも持ち上がる。今日の詩の訳者は、既存の韻律の鋳型に嵌め込むのではなく、時代の語感に則した韻律をそのつど創り出すことを要請されている、というのがさしあたりの結論である。韻文詩の翻訳の問題は、一言語の内部での、旧来の韻律に代わる新たな韻律創出の要請と併行して、さらに展開されるべき課題である。また、本研究から得られた結論のひとつは、、最も豊かなフランス近代詩は、象徴主義、シュルレアリスム、実存主義などもろもろの文学運動の主流ではなく、その傍流に位置した詩人たちによって生み出された、という逆説である。
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文學界
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澤田直・坂井セシル編『翻訳家たちの挑戦 日仏交流から世界文学へ』
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