研究課題/領域番号 |
16H03409
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武田 将明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10434177)
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研究分担者 |
小野 正嗣 立教大学, 文学部, 教授 (20431778)
都甲 幸治 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50386570)
久保 昭博 関西学院大学, 文学部, 教授 (60432324)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 世界文学 / 複数言語と文学 / 現代フィクションの条件 / 文学賞 |
研究実績の概要 |
今年度は、主に世界文学の現状を確認し、最新のフィクション論を現代の社会に適用する方法を探究した。 2016年9月に、研究分担者である都甲幸治編『世界の8大文学賞』(立東舎)という対談本を刊行し、ノーベル文学書、ブッカー賞、ゴンクール賞など世界の文学賞、および芥川賞、直木賞という日本の文学賞について、現代における意義を検証した。すべての対談に都甲が参加したほか、芥川賞とブッカー賞の対談には武田将明(研究代表者)、ゴンクール賞の対談には桑田光平(連携研究者)が参加した。 2016年11月25日に京都大学人文科学研究所でシンポジウム「現代フィクションの条件」を開催、作家の円城塔氏、文筆家の千野帽子氏、京都大学教授の大浦康介氏を招き、久保昭博(研究分担者)の司会により、フィクションと現実の境界が変化する現代におけるフィクションの可能性を議論した。 2017年3月12日には東京大学駒場キャンパスでシンポジウム「複数の言語、複数の文学」を開催、作家の温又柔氏、ことばつかいの中村和恵氏、比較文学者の秋草俊一郎氏を招き、都甲幸治が司会を担当した。複数の言語のはざまで執筆する作家たちを対象に、世界文学状況における創作の意義を議論した。 2016年11月4日には、ルイジアナ州立大准教授のベンジー・カーン氏を招き、"Anthropologia Sexualis"という講演(東大駒場キャンパスにて、武田将明が司会、ディスカッサント)、同年12月2日には塚原史氏(早稲田大学)を招き、「ダダ百周年と現代芸術:ツァラによるアートのグローバル化と起原への遡行の企て」という講演(関西学院大学、久保昭博司会)を開催した。 学術論文についても、武田将明「小説の機能(5)『トム・ジョーンズ』と僭名の時空」、小野正嗣「東京スカイツリーの麓で─あるコンゴ人難民の受難の物語」など多くを発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、世界文学状況における翻訳の役割を考察するシンポジウムの開催を中心に、補足的な研究会、イベントを実施しつつ、各自が研究の基礎固めをするという予定であった。しかし、研究代表者と分担者、連携研究者のあいだで熱意ある議論が交わされた結果、現代におけるフィクションの役割を考察するシンポジウムと、世界文学状況における文学の意義を問い直すシンポジウムを開催することとなり、どちらも成功裏に終えることができた。さらに、各研究者が、書籍や論文の形で着実に本研究の成果を発表し、また比較的小規模な講演会や研究会を催すなど、非常に活発な研究活動を行うことができた。 また、研究者と文学者との連携という目標も、シンポジウムに作家を招待し、その後も交流を重ねることで実現している。加えて、武田将明は国立台湾大学と北京大学に赴き、現地の研究者と情報交換をおこなうことで、東アジアの文学状況への理解を深めることもできた。 これは、ひとつには本科研参加者の努力によるが、同時に世界文学とフィクション論という本研究の二つのテーマが、いずれも現在の世界で活発に研究され、刺激的な分野となっているためであろう。2016年は、ポストトゥルースという言葉が流行語となるなど、まさに真実とフィクションとの境界が問われた年であった。今後もアクチュアルな視点を見失うことなく、研究を進めていければよいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
すでに開催予定のシンポジウムとして、「吉田健一を世界文学として読む」(7月17日、東京大学駒場キャンパス)がある。富士川義之氏(元東京大学教授)、柴咲友香(作家)を招き、研究代表者の武田将明も講師・司会として参加し、昨今日本ではますます評価の高まっている吉田健一を世界文学の文脈で読むとどのような発見があるのかを検討する。 また、現代フィクションの限界に挑戦し続けるフランス語作家、アントワーヌ・ヴォロディーヌ氏を招いた講演会も開催する。さらに、2017年来日予定の韓国作家ハン・ガン氏(国際ブッカー賞受賞)にも、現代における政治と文学の関係を中心にお話を伺いたいと考えている。 他には、一年目の研究成果を踏まえつつ、改めて現代文学における翻訳の意義を問い直すシンポジウムを開催したい。 各自の研究は、昨年度同様に進めることになる。武田将明は、18世紀イギリス文学におけるフィクションの意義を再考する著作を年度内に上梓する計画である。また、各自欧米を中心に海外への資料調査をおこない、最新の文学研究の動向を確認する。
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