研究課題/領域番号 |
16H03416
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
Badenoch Nathan 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 准教授 (50599884)
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研究分担者 |
大西 正幸 同志社大学, 研究開発推進機構, 研究員 (10299711)
金 善美 天理大学, 国際学部, 教授 (20411069)
長田 俊樹 総合地球環境学研究所, 研究部, 名誉教授 (50260055)
稲垣 和也 京都大学, 文学研究科, その他 (50559648)
児玉 望 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (60225456)
千田 俊太郎 京都大学, 文学研究科, 講師 (90464213)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | expressives / 擬態語・擬音語 / オノマトペ / 音象徴 / 希少言語 |
研究実績の概要 |
本研究は、2年目に入り、各研究班では勢いが付き、各言語の分析と地域をまたぐ議論が順調に進んでいる。8月22日から24日は科研メンバーのシンポを京都大学の東南アジア研究研究所で行われた。2日間に渡ってそれぞれの研究報告があり、3日目には論集へ向けてのワークショップを設けた。南アジア班の研究が進んでおり、Expressives of the South Asian Linguistic Areaを仮題名とする論集が形になって来た。15の章からなるこの本は、いくつかの学術出版会社と交渉を進めている。他にも、いくつかの研究会とワークショップを地域班ごとに行っている。
南アジア班の研究成果として、ムンダ語の擬態語辞書の作成が順調に進んで来た。これは、1500語を超える資料で、意味と例文や、周辺の言語との比較データも含めるものである。基本的には、日本語で作成されているが、意味と例文の英訳をつける作業も進んでいる。辞書の前に、ベンガル語、クルフ語などに関する比較的観点からの論考も含む。東南アジア班は、東南アジア山地部で話される希少言語の擬態語を研究を進めて、この地域の類型的分析を始めた。代表者の専門であるビット語の他、クム語とパラウン語を中心とした比較研究を行った。クム語に関しては、既存の辞書を使って、同一言語内の方言差という、日本語のオノマトペ研究においても興味深い分析に着手した。それに加え、割と近い関係にあるこの三つの言語の間に、音象徴の仕組みや形態論的派生プロセスにはどれほどの類似性があるかを把握するためのデータベースを作成し始めた。東アジア班は、朝鮮語の済州島方言に集中し、研究が進められて来た。12月にアメリカで開催された米国人類学会では、代表者がexpressivesに関するパネルを企画し、ビット語の「沈黙」を表す擬態語に関する発表をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究体系は、違う地域で調査を行う3つの研究班から形成されている。広い地域を対象にした研究計画は、班内および班間のスムーズなコミュニケーションが必要不可欠となる。全体を総括する代表者は、それぞれの班と頻繁に連絡を取り、そしてなるべく頻繁に直接会い研究の進捗を聞くようにしている。特に、南アジア班は人数が多く、多様な言語を扱っているが、京都を中心とするメンバーがリードを取る形で班の活動が進められて来た。さらに、この2年間、代表者が受け入れとなるJSPSのPDも調整仕事を補助している。メンバーが活発に研究を行われているお陰で、本研究は順調に計画書にあげた目標に向かっている。
それぞれの班は、研究のアプローチが違い、南アジアと東南アジア班はフィールド調査を行う仕事が特に大事とされている。扱っている言語は、まだ記述されていないか、記述は詳細でない、という状況にある為、現地での聞き取りとデータが急を要する。フィールドで調査を行うには、現地の機関や研究者の協力は欠かせない資産となる。2年目の現時点では、フィールドを中心にする活動は順調に行われている。海外の機関に所属している研究者のネットワークも、科研の活動を中心に広げることはでき、研究の全体像にさらなる広がりを待たせながら、擬態語・擬音語という社会言語現象に関する分析を深めることにも繋がった。
南アジアのメンバーの研究が論集によってまとめられる方向を決めた2年目は、期待を上回るペースで進展されて来た。代表者は、本来東南アジアの研究の先導を取るものであったが、南アジアの研究にも直接携わるようになった。東南アジアの方につぎ込む時間が多少減ったものの、南アジア班の成果をより効率的にサポートすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が最終年度に入り、南アジアの研究をまとめて出版することが優先される。論集は、海外の学術出版社を通じて、英語で南アジアに関心を持つ研究者に限らず、言語学および人類学におけるオノマトペ研究に貢献する本になると期待される。ムンダ語の擬態語・擬音語辞書をまず、日本語版を東京外国語大学のILCAAで出版し、それから英語版に向ける校閲・修正を行う予定である。東南アジア班の最終成果は、ビット語の研究をまとめる単著本の草稿を今年度内に形にする。代表者執筆で、ビット語の沈黙を表す擬態語と、クム語の方言差、に関する論文を言語人類学の学術誌に投稿する。それに、ビット語の擬態語・擬音語語彙集を出す。12月にメンバーを集めて最終報告会も行う。この際、国内の専門家にも参加していただき、研究の成果を発信する予定である。本研究の日本ベースのメンバーでは、今年度に科研が採用された方もおり、この研究で始めた擬態語・擬音語研究をどういう風に継続するかについて話し合う機会にもなる。まずは、南インドの国内外の協力者からなるネットワーク強化をめぐる作戦を全体のメンバーで吟味する。
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