研究課題/領域番号 |
16H03429
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 たかね 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10168354)
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研究分担者 |
杉岡 洋子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (00187650)
広瀬 友紀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50322095)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | レキシコン / 語形成 / 事象関連電位 / 日本語 / 屈折 / 複合語アクセント |
研究実績の概要 |
2018年度は、(1)日本語動詞屈折の研究、(2)日本語複合語アクセント規則(CAR)の研究を中心に研究を進めた。 (1)については、屈折の違反について、すでに「読むない」のような終止形+否定の違反でLANとP600、「読みた」のような音便でない連用形+過去の違反でN400とP600が惹起されることを確認している。このうち、過去形の違反について、「規則」に則った形が何であるのか、理論上の対立がある。すなわち、-taが規則によって語幹に直接付加されるとする立場(「勝った」などの促音便がデフォルトであると考える)と、連用形に付加されるとする立場(「指した」のようないわゆる音便のない形がデフォルトであると考える)である。このうちいずれかの説が正しいと言えるかを検討するために、語幹末子音による成績の差をみるためのwugテストを実施した。ただし、質問紙形式では、既存の「似ている」動詞を思い浮かべてからその過去形を考えて、似た形を産出する可能性が排除できないため、時間的に余裕のないオンラインの形での実験を実施した。新語を聴覚刺激で与え、その過去形の候補を画面上に視覚提示し、正誤判断を求める実験で、正答率と反応時間を計測した。2018年度中にその結果の解析が終了しており、それを踏まえた新たなERP実験を計画している。 (2)については、CARを誤った形で適用した例を作成するために、頭高の第一要素と平板型の第二要素をつないだ複合語を作成し、アクセントを誤った音節に付与した例に対するERP反応を正しいアクセント付与のものと比較する予定である。刺激の選定に、実験音声学を専門とする大学院生のサポートを得て、刺激を絞り込んだ。この作業に予定以上に時間がかかったが、2018年度中に刺激を確定した。今後、その刺激を録音し、ERP計測実験を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)の過去形実験については、ほぼ予定通り、オンラインのwug実験が終了し、今後のERP実験の準備を進めている。(2)のアクセントについては刺激の選定に予定以上の時間がかかったが、その後ERP実験の準備が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(1), (2)ともに2019年度中にERP計測実験を実施し、その結果の解析を行う。 (1)については、すでに行ったERP実験では音便形の処理に興味の中心を置いたため、いわゆる音便のない形(「指した」など)を含まない形で行っていた。しかし、wugテストの結果から、音便のない連用形に「た」が接続する「指した」などの形も合わせて検討する必要があることが明らかになった。今年度中に2つの理論がデフォルトとする形、すなわち語幹末/t/の促音便(「勝った」など)といわゆる音便のない語幹末/s/の形(「指した」)とを比較し、あわせて連用形との比較も行う予定である。 (2)については確定した刺激を録音し、予定通り、CAR(複合語アクセント規則)の違反にかかわるERP実験を実施する。第一要素でCARが適用されていることが判断できる刺激を用いて、第二要素のアクセントパターンにより異なる種類の違反を作成し、そのERP反応を比較する。 さらに、当初計画にありながらまだ検討できていない日本語複合動詞にかかわる実験など、語形成における演算処理と記憶との関係を洗い出すのに適切ないくつかのトピックについて、ERP計測実験の妥当性の検討を開始し、今後の研究計画につなげていく。
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