研究課題
本研究は読解中の視線計測により,英文読解において一貫したテキスト理解の確立に必要となる「理解の更新プロセス」を,テキスト理解の5つの状況的次元(同一性・意図性・因果性・時間性・空間性)の観点から検証することを目的とした。研究期間の2年目にあたる平成29年度では,次年度に実施予定である視線計測実験に先立ち,5つの次元の理解を1文ごとの自己ペース読み課題によって検討する実験を2つ行った。これまでの研究では5つの次元のうち1つの次元の理解を個別の実験により検討していたが,本研究では単独の実験において複数の次元の理解を並列的に検証した。実験では,5つの状況的次元のそれぞれに対応する実験テキストを作成し,各テキストが5つの次元のいずれかについて,文章の後半に前半の内容と矛盾する情報を含むようにした。協力者はこれらの実験テキストを1文ごとにコンピューター画面上で読解した。そして,先行情報と矛盾する情報に対する協力者の読解時間を測定した。矛盾を含まない統制条件における読解時間との比較を統計的に行った結果,5つの次元のうち,意図性,因果性,時間性に関する理解の更新は比較的行いやすく,特に意図性における更新プロセスは安定していた。一方,空間性についての理解の更新は,英文読解熟達度の低い学習者にとって困難であった。さらに,同一性の理解の更新は,英文読解熟達度に関わらず困難であった。これらの結果から,英語学習者の読解における理解の更新プロセスは,5つの状況的次元(同一性・時間性・空間性・因果性・意図性)によってその困難度が異なる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
前年度の推進方策等の通り,テキスト理解の5つの状況的次元における理解を並列的に検討する予備的な実験を行い,次元間における理解の更新プロセスの違いを解明した。そしてその結果を,学会にて発表,及び論文にて投稿し,採択にまで至った。また,これらの成果に基づいて次年度以降の視線計測実験について実験材料や実験デザインの検討と改善を行うことができた。上記の理由から,概ね順調に進展していると判断できる。
本年度では5つの次元の理解を検討する予備的な研究を行ったため,今後はそれらの結果に基づいて視線計測実験のための材料選定や実験デザインの再検討を行い,5つの次元の理解を検証する視線計測実験を実施する予定である。また,その結果を国内外の学会にて発表,論文にて成果を公表することを目指す。視線計測実験により,読解中の理解プロセスを,今年度以上の精細さで解明し,英語学習者にとって理解の更新が難しい次元とその読解指導における示唆を与える。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
JACET Journal
巻: 62 ページ: 109_128
ARELE
巻: 29 ページ: 81_96
10.20581/arele.29.0_81
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~ushiro.yuji.gn/