研究課題/領域番号 |
16H03441
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
西垣 知佳子 千葉大学, 教育学部, 教授 (70265354)
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研究分担者 |
安部 朋世 千葉大学, 教育学部, 教授 (00341967)
中條 清美 日本大学, 生産工学部, 教授 (50261889)
物井 尚子 (山賀尚子) 千葉大学, 教育学部, 准教授 (70350527)
小山 義徳 千葉大学, 教育学部, 准教授 (90546988)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | データ駆動型学習 / Data-Driven Learning / DDL / 気づき / 帰納的学習 / 用例コーパス / 英文法学習 / 小中高の英語教育の連携 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,小・中・高校生を対象に,英語授業にデータ駆動型学習(Data-Driven Learning: DDL)を導入する方法とその効果を検証し,その成果を踏まえてDDLを普及させることを目的としている。DDLは学習者の「気づき」を促す帰納的な学習方法で,英文法に関する明示的知識が身につく。DDLは,学習者が教師の説明を聞いて受動的に学ぶ従来の「教わる英文法」から,能動的に思考して学ぶ「探究する英文法」へと学習方法を転換させる。コミュニケーション重視の英語授業では,明示的な知識が育ちづらいという問題が指摘されることがあるが,DDLは英語使用の正確さを高める。また,本研究課題の遂行にあたっては,小学校外国語において解決すべき喫緊の課題がある。すなわち「英語は嫌い」「英語は苦手」という小学校の学級担任が,英語の指導にあたる場合が少なくない。この現状に鑑み,本研究課題で取り組むDDL支援サイトは,小学生用を中・高生用に先行して開発することとした。 平成29年度は主に,1) DDLに関する「基礎研究」と,2) 「DDL支援サイト」の開発を行った。前者の「基礎研究」については,1)小学校と中・高の英語教育の接続状況を検証するため,文部科学省が2017年に公表した小学校英語テキストWe Can! で扱われる文法項目の調査,2)英語と日本語の比較をとおして学ぶときに,両者の間で顕在化する英文法と国語科文法の齟齬の調査,3)英文法指導に援用するCan-Doに関する調査,4)DDLの効果に関する研究,5) タブレットを使ったDDL授業に関する調査を行った。後者の「DDL支援サイト」の開発については,1)DDL検索用の用例コーパスの作成,2)DDLサイトで使用するイラストとCAN-DO一覧表の作成,3)小学生が使いやすい基本動作の設定を行い,プロトタイプを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題はおおむね順調に進捗していると考える。「小学生のためのDDL支援サイト」のプロトタイプが完成したことから,その一般公開を平成30年度の秋と設定した。このことにより,本研究課題が平成32年4月に全面実施される小学校学習指導要領の円滑な始動に寄与するものと考える。本研究課題において,平成29年度に行った研究活動は次のとおりである。 はじめに,支援サイトに関する「基礎研究」を行った。まず,扱う文法の項目の選定を行った。平成29年に公示された小学校学習指導要領とその解説,ならびに文部科学省が公開した小学校英語教材We Can ! とその指導書で扱われている文法項目を調査し,その結果をもとに「小学生のためのDDL支援サイト」で扱う文法項目を決定した。次に,小学校の英語授業では,英文法用語を使用できない。このことから,文法指導にCAN-DOを活用する方法を検討し,小学生がCAN-DOを使って学習項目を選んだり,DDL検索の条件を絞り込めるようにした。さらに,DDL教材を作成する過程をとおして,国語科文法との連携が必要であることが明らかになった。例えば,英文法では「主語,動詞」と言うのに対し,国語科文法では「主語,述語」である。このような英文法と国語科文法において見られる指導上の齟齬の事例を収集し,両者の連携を困難にしている要因を検討した。加えて,小学校において実際にDDLを実践し,その指導成果を検証し,小学生がDDLを通して習得する英文法の明示的知識について確認した。 以上のような「基礎研究」の結果を踏まえて,「小学生のための DDL支援サイト」のプロトタイプを開発した。小学生が親しみを持って学習に取り組めるようにイラストを使い,画面の配色,フォントの種類やサイズに配慮した。また,用例検索の条件の絞り込みは,検索条件リストから簡易に行えるようにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方針を,1) 基礎研究と,2) DDL支援サイトの開発に分けて述べる。 1番目の目標である基礎研究では,小・中・高校生にDDL実践を行って学習効果を検証し,さらにはDDLによって引き出される学習効果を理論づけて説明できるようにしていく。DDLは本来,言語形式偏重型の学習法なので,DDLをコミュニケーション重視の授業に組み込む形で,英文法の知識の内在化(intake)促進をはかっていく。また,小・中・高の英文法学習を接続・連携させるために,学習者と英語教師が文法学習を俯瞰し,進度や到達レベルを確認できるような「英文法学習系統表」を作成していく。これまでに小学生用と中学生用の試作版を作成した。今後は,高校生用の系統表を作成し,小・中・高の文法指導を連携させて「英文法の学習工程表」を作成したい。また,これまでに作成した系統表の試作版は教師や中・上級学習者には理解しやすいものの,入門・初級学習者が利用するには実用的とは言えない。今後は,CAN-DOを活用するなどの方法で,年齢や英語力のレベルに応じた親しみの持てる指標へと改訂していく。 2番目の目標である中・高生用DDL支援サイトのプロトタイプの開発推進は,平成33年度全面実施の中学校学習指導要領を視野に入れて行う。開発では,中学校と高等学校の次期学習指導要領ならびにCEFRを考慮に入れて学習文法項目を設定していく。CEFR を見据えるのは世界的に利用可能なサイトとするためである。 支援サイトの開発の際には,ソースコーパス(平成28年度に作成済み)から英文用例の抽出を行う。次に,抽出した英文を英語教師が文の長さと語彙レベル等に配慮して修正を行い,さらに英語母語話者が authenticity を保つように校正し,最後に英語教師が日本語対訳をつける。
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