研究課題/領域番号 |
16H03456
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
松本 佳穂子 東海大学, 国際教育センター, 教授 (30349427)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 異文化間能力 / 自己省察ツール / 一貫教育モデル / 異文化理解教育 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、まず、ヨーロッパ評議会言語政策部門によって異文化間能力(Intercultural Competence)養成のために開発され、ヨーロッパで広く使われている自律的省察ツール、Autobiography of Intercultural Encounters (AIE)」の通常版と子供版を、日本の小学校から大学に至る教育現場に導入し、その効果を検証すること、次に、これを基に指導方法、カリキュラム、評価方法などを開発し、言語教育や異文化理解教育における異文化対処能力と問題解決能力養成のための一貫教育モデルを構築することである。1年目の以下4点の目的はほぼ達成された。 1.AIEについて、ヨーロッパにおける使用状況と実践例、効果の検証を含む研究成果を、特に発達指標作成の可能性に注目して収集・検討した。 2.上記の調査結果を精査して、日本の現状と将来的なニーズに合ったAIEの導入方法を考察・確定した。その際、AIE開発者のマイケル・バイラム博士、ヨーロッパ近代言語センター(ECML)のFREPAプロジェクトのリーダーやメンバーから助言を頂いた。 3.AIEの通常版と子供版の翻訳を完成し、両者の入力を全てオンラインで行えるシステムを構築した。今年度(2年目)から2年間にわたって実験を行う小学校から大学までの様々な英語の授業、及び一般的な異文化理解教育の授業について、連携研究者、協力者を通じて各教育レベル10クラスずつを確保して、承諾書の作成・送付・担当教員との打ち合わせなどの準備を進めた。 4.子供版は基本的に個別インタビューを想定しているので、一斉授業で行えるかどうか 小学校5年生の2クラスを使って試行を行った。その結果、小学生に関しては個別インタビューの方がより意味のある反応が収集できることが分かったため、実験対象の半分をインタビューに切り替える予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画通りに2年目以降の実験の準備ができているが、上記の実績のところで説明したように、小学生はまだ感じたことや反応を詳細に書くという行為(オンライン入力でも紙でも)に慣れていないことが、2クラスを使った予備実験から分かった。授業中に出てきた様々な興味深い発言が、書かせると出てこないことが多いため、実験の半分を個別インタビューにする準備を進めている。その際は父兄に同意書を書いて頂く予定である。また、子供版AIEに使われている具体例が欧米をベースに考えられており、日本の子供たちにはあまり身近なものではないので、ヨーロッパ評議会言語部門の責任者の許可を頂いて例を日本の状況に即したものに変える作業を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
以下のように今後3年間の実施を進めていく。
<平成29年度> 小学校、中学校、高等学校、大学の英語の授業と一般的な異文化理解教育の授業においてAIEを使用した実験を行う(基本的には本科研のメンバーが出向いて授業を行うが、自ら実施を希望する教員については事前に打ち合わせとトレーニングを行って実施を依頼する)。小学生に対しては個別インタビューを半分入れる予定なので5クラス、後はできるだけ性質の違う授業を各教育レベル約10クラスずつ用意して、それぞれの教育レベルに合わせて開発した教材を使って授業を行った後にAIEを実施する。同時進行的に、バイラム博士とそのグループ(Cultnet)の著作を基に異文化間能力の構成要素を再検討し、本実験に合った評価ツールを開発して、パイロット実験を通じて妥当性・信頼性の検証を進める。 <平成30年度> 29年度に十分にカバーできなかったタイプの授業を加えて引き続き、評価ツールの検証を含む実験を行う。AIEについては集積された大量の被験者入力データのテキスト分析に基づき、各年齢層と教育レベルに合った教員のための指標と生徒・学生のための自己チェックリストを構築する。また、ビデオや観察記録を含む授業データを分析し、更に解明したい点については教員に対するアンケートやインタビューを通じて明確にしていく。 <平成31年度> これまでの検証結果を基に、小学校から大学までの英語の授業と一般的な異文化理解教育の授業について、そのタイプ別にAIEを用いた異文化間能力養成教育のモデル化・最適化を図る。つまり、それぞれの教育レベルにおいて、より効果が見られた状況・方法や指導モデルを選択し、それを修正・調整したり組み合わせたりして、小学校から一貫教育として異文化間能力育成を行うための総合的かつ複線的教育モデルを提案する。結果はシンポジウム、ウェブサイトや出版物によって公開する。
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