研究課題/領域番号 |
16H03460
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
松本 ますみ 室蘭工業大学, 工学研究科, 教授 (30308564)
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研究分担者 |
清末 愛砂 室蘭工業大学, 工学研究科, 准教授 (00432427)
奈良 雅史 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (10737000)
権 寧俊 新潟県立大学, 国際地域学部, 教授 (20413172)
大野 旭 (楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
小林 敦子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90195769)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 一帯一路構想 / 中国 / エスニシティ / 移動 / アイデンティティ / 経済活動 / 歴史の再構築 / シルクロード |
研究実績の概要 |
本科研費を使い、まず2016年6月11日と12月3日に合同研究会を行った。また、研究代表者、分担者、協力者はそれぞれフィールドワークを行った。その結果、次のことが明らかとなった。まず、一帯一路構想の活性化により、従来の「走出去」の動きが活発となり、中国のエスニシティが国外でネットワーク作りをしているである。例えば、ドバイ、クアラルンプール、ラワルピンディなどでは回族のコミュニティが形成され、現地のムスリムネットワークと中国のムスリムネットワークを駆使して商業活動や宗教学習活動が行われている。特に、パキスタンではCPEC影響下猛烈な中国語ブームが沸き起こっているのは特筆すべきである。 また、カザフスタンにおけるドゥンガン人(1世紀以上前、陝西省から移動したムスリムの子孫)と中国の回族との関係が一帯一路構想に棹差し、一層密接となっていることが調査により明らかになった。ドゥンガン人は故郷に里帰りをして自分のルーツに自信を深めたり、回族はカザフスタンを観光や投資のために訪れていることが明らかになった。寧夏の回族は、宗教関係においては政府の厳しい監視下に置かれつつも、経済の方面にては中東通商関係のハブとなり、同じムスリムという点を利用しながら、イスラーム圏への投資促進を担っている。そのことによって、きわどい社会状況を立ち回っていることが明らかになった。また、雲南において、回族はさらに自らのモスクを観光資源化しようとし、国内外のムスリムにアピールしていることも明らかとなった。 歴史の文脈ではアメリカ、中国、台湾での档案調査によって、一帯一路構想が日本の大陸政策の理論である「大アジア主義」と似た構造を持っていることも明らかになった。特に、ロンドンに義烏から大陸横断鉄道でコンテナが届いた2017年1月の事象は、中国のアヘン戦争以来100年にわたる近代の屈辱を晴らす象徴的事象であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に各地(中国、台湾、米国)のアーカイブ調査や現地調査ができているが、一つ問題がある。それは、昨今の中国政治体制による締め付けにより、中国国内の宗教施設やそこで学習/仕事をする少数民族に対するアンケート調査や参与観察、関係者へのインタビューが制限されていることである。「一帯一路」構想の過熱と裏腹に残念ながら状況は改善される見込みがない。そこで、中国国外に出た人々に対するアンケート/インタビューや公共空間における言説研究に重点を切り替えることにする。
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今後の研究の推進方策 |
シルクロード関係の近代における言説について文献調査を精力的に進めていきたいと考えている。 2017年度は2回の公開研究会をそれぞれ北海道大学と早稲田大学で開催する。さらに、中国、パキスタン、マレーシア、カザフスタン、韓国、モンゴル国へのフィールドワークを計画している。カザフスタンでは、8月に開催される鄭和平和フォーラムの会議に出席するとともに、参加者の「一帯一路」への期待や不安についてインタビューを行う。さらに、寧夏銀川では夏にアラブ圏との通商見本市が行われるので、多くの関係者にインタビューを行うことを計画している。それにより、来年度の最終年度におけるシンポジウム開催や査読付論文の執筆の準備に怠りのないようにする。
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