研究課題/領域番号 |
16H03460
|
研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
松本 ますみ 室蘭工業大学, 工学研究科, 教授 (30308564)
|
研究分担者 |
清末 愛砂 室蘭工業大学, 工学研究科, 准教授 (00432427)
奈良 雅史 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (10737000)
権 寧俊 新潟県立大学, 国際地域学部, 教授 (20413172)
大野 旭 (楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
小林 敦子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90195769)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | アジア近現代史 / 文化人類学 / 教育学 / エスニシティ / 民族学 / 宗教学 / 人の移動 / 文化戦略 |
研究実績の概要 |
本科研は、2014年度から中国の習近平主席が本格的に打ち出した「一帯一路」構想において、中国国内のエスニシティが、国外の関連するエスニシティと連動しつつ、いわゆる「ウィンウィン」をめざす経済構想にどのように棹差しているのか、ということを明らかにするものであった。さらには、その歴史的な系譜とは何なのか、どのような言説に基づいて論理を組み立てているのか、ということを分析した。 一つは新「中華民族」言説である。例えば、カザフスタンの東干人は、かつて中国西北から移民して中央アジアに移ったムスリムの子孫であるが、中国からの投資や、中国への留学により、ムスリムというよりはむしろ、「中華民族」との意識を強めたいという思惑が中国側にあることが研究により明らかになった。また、中国が急速にグローバル経済の牽引車となることによって、多民族性に棹差すというよりは、むしろ、多民族性、特に宗教性を否定しつつ貧困脱出を図るような動きが2016年度前後から顕著となっている。そのような環境の中で、例えばムスリムであった歴史的人物鄭和は、「中華民族」の英雄に、回族に要望が強かったアラビア語教育は私的空間でも制限され、グローバル化の中で要求が強い英語教育に大権をもってシフトしようとしている。 もう一つは「大国」意識である。かつて戦時中の日本知識人が「近代の超克」の名のもとに、近代化と日本精神を結びつけ、対外伸張を正当化しようとしたことがある。そこには、「シルクロード」を知るという活動も含まれていた。現在はそれ以上に大規模に、中国では歴史意識の再構築が行われている。それは、18世紀から20世紀にわたる欧米の植民地主義とは一線を画し、「軍事主義」以外での経済発展主義や文化戦略を使った対外伸張を模索するものである。この「中華民族」意識と「大国」意識の中で従来のエスニシティを重視した政策は、縮小しつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた中国のアラビア語学校、モスクの調査研究や当事者への聞き取り、さらには外国に移住した中国ムスリムの訪問調査が中国の国内事情の変化により難しくなった。その理由は、2016年前後から中国政府が宗教問題をより「敏感視」しはじめたからである。米国の「テロとの戦い」と歩調を合わせる形であるが、厳しい監視のターゲットはイスラームだけでなくキリスト教も含まれる。イスラーム学校自体が消滅を余儀無くされる危険性もある。また、イスラーム的意匠の建築物も、「中国化」の掛け声のもと、取り壊される、という事態も起こっている。本科研メンバー以外の外国人研究者も中国国内での調査研究が難しくなり、中には研究自体をあきらめたものもいる。本科研でも、当初中国国外に居住する中国ムスリムへのインタビューを計画していたが、情況の急激な変化のためあきらめざるを得なかった。また、CPEC(中国パキスタン経済回廊)の聞き取り調査にも入ったが、なかなか取材許可が下りない、また、共同事業の場に立ち入りが困難という問題もあった。 しかしながら、義烏のように、ムスリムが中心となって商業活動をしている場所では、訪問調査の結果、まだまだムスリムネットワークは健在であることが分かった。また、カザフスタンの東干村の当事者への調査では「カザフスタン国籍」を持つことと中国からの移民の子孫であることの意味を問い直すような宗教活動や経済活動が行われていることもわかったのは収穫であった。その他、戦後の日本のイスラーム政策を担った「国際モスレム協会」の史料が台湾で発掘され、日本のイスラーム政策の戦前と戦後の連続性、さらには冷戦時の外務省の動きを明らかにすることができた。その点では、順調に研究は進捗しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
11月4日に、早稲田大学国際会議場で国際シンポジウムを開催し、国際的な中国ムスリムの人口流動について文化人類学的視点になって勢力的な研究を行っている世界屈指の専門家である陝西師範大学の馬強教授をゲストとして迎える。本科研の研究分担者、協力者も3年間の研究の成果を報告する予定である。また、最終年度の研究として、松本は文献研究に戻り、一帯一路構想についての書籍や、中国エリートの関係言説の分析を通して、中国がこれからどのような方向に歩んでいくのか、検討を進める予定である。さらには、この科研の実施中に急速に進められた「宗教の中国化」の方針について論点をまとめ、一帯一路構想との関連との兼ね合いを含み、論文にまとめる。大野(楊)は、最終年度の今年、モンゴル国を訪問し、社会主義時代を生きた女性にインタビューし、一帯一路構想に伴うモンゴル社会の変化について聞き取りを行う。また、奈良は雲南省に赴き、海外から帰国した複数の回族家族と面談し、十年前と現在の家族のありようの変化と中国の宗教民族政策の変化との関連性を明らかにする。権は、9月に延辺挑戦族自治州で一帯一路構想について朝鮮族研究者と面談し、レビューを受ける。東北アジアにおける中国ー朝鮮民主主義人民共和国ー韓国ー日本の新しい関係について模索する。特に、南北会談と東アジアの非核化が進んでいる情況で、コリアンファクターについて精査を行う。研究代表者、分担者とも関連論文を執筆し、学会誌に投稿するとともに、国際学会でも発表を行う。これらについて研究成果報告書にまとめ、商業出版につなげることとする。
|