研究課題/領域番号 |
16H03533
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
関根 康正 関西学院大学, 社会学部, 教授 (40108197)
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研究分担者 |
鈴木 晋介 茨城キリスト教大学, 文学部, 助教 (30573175)
根本 達 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40575734)
志賀 浄邦 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (60440872)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | B. R.アンベードカル / 佐々井秀嶺 / 仏教徒 / ダンマ / グローバルネットワーク / ナーグプル / 改宗記念祭 / エンゲイジド・ブッディズム |
研究実績の概要 |
関根は、2017年8月に南インドのタミル・ナードゥ州におけるダリト解放運動の展開について現地で知見を得た。アンベードカルが目指した不可触民の中の様々なカーストの分断を差別解放のためにつないでいくという高邁な理想は、タミル地域に関してはいまだうまくいっていない。タミル・ナードゥの主たるダリト・カーストのパライヤルとパッラルとは解放運動において連携しない。このダリト内部のカースト間対立を超えた連帯が解放運動にとって最重要課題であることを確認した。 鈴木は、2018年2月~3月にかけてスリランカ現地調査を実施した。インド仏教徒のグローバルネットワークと日常宗教実践に関する資料収集である。スリランカで修行するインド僧とインドと往来のあるシンハラ僧に対するインタヴューを行い、相互の宗教的実践・思想の伝播の実態について詳細な一次資料を収集できた。 根本は、2017年7月、佐々井秀嶺がデリーに保管してきた仏教徒運動関連資料15箱(日記や写真、雑誌、新聞の切抜など)を東京に輸送した。これでデリーの資料47箱すべての移動が完了した。2017年9月~10月にインドのナーグプル市で、仏教徒(元不可触民)居住区での調査に加え、9月28日から30日まで改宗広場で開催された改宗記念祭(「転法輪の日」)に参加し、仏教徒へのインタヴューや資料収集を行なった。同時に、市内のインドーラー仏教寺院にある佐々井の所蔵資料の整理を行なった。 志賀は、アンベードカルの主著である『ブッダとそのダンマ』のテキスト研究と被差別民解放運動に関する現地調査を実施した。テキスト研究については、『ブッダとそのダンマ』のうち、第4部「宗教とダンマ」の読解を進めた。その成果は、2018年1月の科研研究会において発表した。 また 2018年2月にはインド・チャティスガル州ドンガルガルで開催された第25回国際仏教徒大会に参加し、現地調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の進捗は現地調査においても研究会などの開催においても計画以上の進展があった。関根は、インドのタミルナードゥ州政治におけるダリト政党の生成と変容について、文献と現地調査でのインタヴューによってその重要なポイントが見えてきた。そこにはダリトの引き裂かれの現実を生きなければならないという不条理の苦悩が如実に表れている。この政治的なダリト・リーダーに集約される苦悩は三者関係の差別構造の中での被差別民に共有される苦悩であり、本科研が取り組む被差別問題における当事者性の核心に迫る問題であることが明らかになってきた。 鈴木は、2016年度のナーグプル調査、2017年度のスリランカ調査を通じてインド仏教徒のグローバル・ネットワークの実態および宗教的実践・思想の影響関係に関する一次資料の収集に大きな進展をみた。これら調査結果は、南アジア全域という視野のなかでインド仏教徒の解放運動の現在を捉え直すという新たな課題を導くものとなった。 根本は、佐々井秀嶺の所蔵資料のデジタルアーカイブ化については、2016年度と2017年度の2年間でデリーの資料をすべて日本に輸送できた。また、佐々井と仏教徒の創発的宗教実践についても、ナーグプル市の仏教徒居住区や改宗記念祭で調査を行い、より十全な実態把握ができた。 志賀は、『ブッダとそのダンマ』のテキスト分析研究を順調に進め、被差別民解放運動における国際仏教徒大会の持つ意義を現地で参加しながら吟味できた。 本年度の計画以上の進捗の一つの大きな理由は、本研究の社会的貢献を実践できたことにある。2017年6月にインドより来日した佐々井秀嶺師との対話会を一般人にオープンな形で金鶏山真成院回向堂において開催でき、研究会として「出家」「共苦」「慈悲」「求道」について問答し、その後に佐々井師と一般参加者との対話会を持つことができた。社会に研究成果を還元する重要な出発点を築けた。
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今後の研究の推進方策 |
関根は、インドのダリト問題の現代性を検討するために、英国でのダリト問題すなわち南アジア系移民社会に持ち込まれ、再生産されている差別問題に取り組む。同一の民族社会の人間をケガレに結び付けて差別する点が、現代西欧の平等感覚からは大きな違和感がある。それ故に特殊な差別問題として英国社会で強く問題視されている。移民社会と英国社会との間で生起している、この特異な差別問題への運動の在り方をめぐって、複数の取り組みを比較していく予定である。 鈴木は、これまでの現地調査の成果をふまえ、インド・ナグプールおよびスリランカの双方の仏教寺院を訪れ、僧侶とその周辺の在家仏教徒の日常的宗教実践に関する参与観察を行う。とくにスリランカの上座部仏教からインドへの思想・実践的影響に関する事例収集が眼目となる。インド・ブッダガヤの僧院のフィールドワークも視野に入れている。 根本は、この二年間の現地調査の成果を踏まえ、インド・ナーグプル市の仏教徒居住区に滞在し、仏教徒による佐々井の聖者化、これを受けた佐々井による宗教儀礼の創出、この場における仏教徒と佐々井の生成変化といった創発的な宗教実践と当事者性の拡張について現地調査で議論を深めていく。同時に、市内のインドーラー仏教寺院と市外の龍樹菩薩大寺に保管されている佐々井の仏教徒運動関連資料を整理し、順次日本へ輸送する。 志賀は、アンベードカルの主著『ブッダとそのダンマ』のテキスト研究とエンゲイジド・ブッディズムの差別解放力に関する現地調査を引き続き行う。テキスト研究については、第1部『シッダールタ・ガウタマ 菩薩はいかにしてブッダになったか』の読解を進める予定である。また,アンベードカルによるスピーチ等の言説分析やインド・ナーグプル等における現地調査を通して、<差別されてきた者>としての不可触民と<差別からの解放の担い手>としての仏教徒の二重性について考察する。
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