研究課題/領域番号 |
16H03542
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
市橋 克哉 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (40159843)
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研究分担者 |
本多 滝夫 龍谷大学, 法学部, 教授 (50209326)
安田 理恵 名古屋大学, 国際機構(法), 特任講師 (60742418)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 比較行政法 / 法典化 / 法整備支援 |
研究実績の概要 |
行政法の法典化が進むアジアの市場経済移行諸国、28年度にあっては、中国、モンゴル、ウズベキスタンおよびベトナムにおける一般行政法典、行政手続法、行政訴訟法、行政不服審査法等の制定または改正の動向について調査を行い、その傾向を分析した。とくに、本研究の開始に当たり設定した三つの視角、すなわち、①市場経済化を促す行政法の法典化、②ドナーとレシピエントが協働するグローバル空間と接合する行政法の法典化、③法実務と法理論の蓄積を欠いた行政法の法典化という視角から上記の国々でそれぞれ進行する行政法の法典化を分析した。 その結果、①については、行政手続法制定に失敗するも、私人の経済活動を規制する許認可を公正で透明なものにすることで市場経済化を促す許可法等の制定という迂回路を進む中国、ウズベキスタン、②については、日本とドイツの法律家がそれぞれドナーとして支援するとともに、このドナー同士も連携して行政手続法、行政訴訟法等行政法の法典化を進めるモンゴル、ウズベキスタン、そして、③については、行政法判例と行政法理論の蓄積がないまま、まず一般行政法典という行政手続法よりさらに包括的広範な規律対象をもつ法典、比喩的にいうならば、行政法総論の内容を包括的に規範化する法を制定することで行政法発展に先行する段階をまず進むモンゴル、ベトナムの行政法法典化の傾向に注目している。 行政法の理論と実務には、この法典化を契機として、かつてのそれからのパラダイムシフトの徴候を孕んでいることも新たな傾向としてみえている。例えば、適法性監督から権利救済へと向かう徴候を示す行政裁判、指令による調達から契約による調達への転換という徴候を示す民営化した特殊会社の公共調達である。前者は、同様のパラダイムシフトのなかにあるフランス行政裁判、後者は、ロシアの国有株式会社の公共調達が、その範を示すものとなっていることもみえてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でのべたように、本研究の当初に設定したアジア市場経済移行諸国の行政法の法典化の意義とその限界を分析するための三つの視角、すなわち、①市場経済化を促す行政法の法典化、②ドナーとレシピエントが協働するグローバル空間と接合する行政法の法典化、③法実務と法理論の蓄積を欠いた行政法の法典化という視角は、28年度の主な対象国とした中国、モンゴル、ウズベキスタンおよびベトナムにおける一般行政法典、行政手続法、行政手続法、行政不服審査法等の包括的または部分的な行政法の法典化の傾向を把握するための有効な視角であることが明らかになっている。 とくに、③法実務と法理論の蓄積を欠いた行政法の法典化という視角は、欧米・日本といった先進資本主義国の行政法の法典化が、理論と実務の蓄積を前提とする法典化であるのに対して、アジア市場経済移行諸国のそれは、まずは法典化ありきという逆立ちした法典化であり、この種の法典化が、行政法の理論と実務の発展を促すというある種のイノベーション機能を発揮する機能があることが明らかとなっている。この点で、欧米諸国・日本が、理論、実務および法典化を含む法の制度化という三つの要素が行政法を蓄積し発展させるトリアーデとなっているのに対して、市場経済移行諸国にあっては、このトリアーデが機能する段階に先行する段階、すなわち、法典化が理論と実務を生成し、次の段階であるこのトリアーデへの移行と確立を準備するという行政法発展の先行的蓄積段階があること、そして、これが、市場経済移行諸国では行政法の発展のためには経過しなければならない段階となっているという比較行政法の新たな知見が、本研究によって得られている。 また、欧米諸国・日本が当然備えている次の段階を準備するこの先行的蓄積という過渡期段階のなかには、次の段階の特徴を徴候的に示す行政法のパラダイムシフトもみえているのである。
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今後の研究の推進方策 |
①中国 行政訴訟法改正を終え、現在、行政復議法改正作業を行っている中国は、その法典化の動向をみるとき、改革開放後40年を経たという歴史とそこにおける行政法の発展において、先に述べた「行政法発展の先行的蓄積段階」をある程度経過したところにある。そこで、とくに、そこでは、中国における行政裁判が適法性監督から権利救済へとパラダイムシフトする徴候がみられるため、その特徴を明らかにすることで、次の段階にあってどのような行政法が生成するかを検討する。 ②モンゴル 一般行政法典の制定、行政訴訟法の改正を終えたモンゴルは、いわゆる民主化後25年余りしかたっていないものの、この10年の変化は著しく、法典化は、行政裁判所の実務(裁判例)の展開を刺激しており、そこには、中国同様、適法性監督から権利救済へと向かうパラダイムシフトの徴候がみられる。そこで、ある程度の蓄積がある行政裁判所裁判例を素材として、この変化の徴候を分析することで、モンゴル行政法の生成が孕む特徴とを明らかにする。 ③ベトナム ベトナムは、近時、行政訴訟法を改正し、行政不服審査法も苦情処理制度から分離独立させ、さらに、現在、一般行政法典案の作成に意欲的に取り組んでいる。ベトナムの場合、裁判例へのアクセスに限界があるため、この法典化が、行政法理論にいかなるパラダイムシフトをもたらしているかについて分析を行う。とくに、現在、新しい行政法教科書の作成が行われており、この教科書作りを通して、行政法理論の発展が行政法の法典化によってどのように進展しているかを明らかにする。 ④ウズベキスタン 新大統領のもとで、今年から行政法の法典化(行政手続法、行政訴訟法、行政裁判所設置)が一挙に進もうとしている。アメリカ、ドイツ、日本といった多彩なドナーがこれを支援していることから、ここではグローバル空間と接合した行政法の法典化という視角を重視した研究を進める。
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