今年度は、市場経済移行諸国における行政法の法典化とその行政法に及ぼす影響を調査し、分析・検討した。本研究開始当初、これら諸国では行政法の法典化がブームとなり、法典化によって、西欧・日本と同様の行政通則法(行政手続法、行政訴訟法等)ができれば、行政法も刷新されると想定していた。確かに、行政通則法には、西欧・日本の行政法の継受機能、法典化がめざすモデルとベンチ・マークを西欧・日本へとシフトさせる機能、そして、行政法の「トリアーデ」(行政法の「理論―実務―制度」という三要素の分業とその相互対立・補完による行政法の発展)を創造する機能が備わっている。しかし、今年度の現地調査と分析・検討の結果、実際には、行政法発展の分岐、すなわち、「トリアーデ」を構築し西欧の行政法発展の道に入った国(ラトビア)もあれば、なおも「トリアーデ」の生成過程にあって、西欧の発展とは異なる独自の行政法発展を示す国(アジア市場経済移行諸国)もあることが分かった。市場経済移行諸国における法典化後の行政法発展には、複線的状況がみられるのである。 そこで、この「トリアーデ」の生成過程にある国に対し行政法整備支援を行う場合、どんなアプローチが適切かについても検討を行った。これに関する本科研最後の企画として、ドイツのツィーコー教授とアメリカのラバース教授を招き議論を行った。民主主義の課題は棚上げして形式的法治国(薄い概念としての法治国)の漸進的な発展を目指し、法解釈論に基づく「法適用の大胆さ」という学者と実務家による挑戦に期待するツィーコー教授、民主主義の諸制度を重視し、市民社会との協働の強化をめざすラバース教授という二人のアプローチの「違い」が、そこでは明らかとなった。この二つのアプロ―チは、「トリアーデ」の生成過程にある国に対する行政法整備支援を行う際の座標軸と位置づけりことができるものである。
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