医療保障についてみれば、高齢者のみを対象とする公的医療保険制度を構築している国はなく、アメリカ合衆国が低所得の高齢者を対象とする医療扶助の制度を有している。老人福祉法の枠内に設けられた老人医療制度から始まるわが国の高齢者医療制度はかなり独特である。加えて、フランスでは、農村部等の高齢化と過疎が進む地域では、開業医の引退等により、医療提供体制そのものが揺らいでいる。介護については、社会保険の仕組みで介護のサービスを保障しているのは、ドイツとわが国に限られるが、ドイツは若年者も含む一般的な制度であるとともに、地方公共団体の行う介護扶助が従来から重要な位置を占めている。フランスは、議論はあるものの、財政問題がネックとなり、社会扶助(公的扶助)の仕組みで介護の公的サービスを提供している。住居に関しても、たとえばフランスでは、一般の制度とは別に、低所得の高齢者をも対象とする住宅給付制度を用意している。このように、各国の状況は様々である。それでも、今日では高齢者に特化した制度を社会保障制度の多くの分野で用意しているというわけでは必ずしもない。 わが国の場合、高齢者のみを適用対象者とする制度の典型例は後期高齢者医療制度や介護保険制度であるが、急速に進む少子高齢化と人口減少を勘案すると、今後、高齢者に特有の法的地位を与えるこうした制度を維持していくかのが妥当かについては早急に検討が必要である。高齢者を含めた一般的な制度を基本としつつ、それでは適切な対応ができない高齢者集団に的を絞った仕組みの可能性を考えていく必要がある。他方で、高齢者の住宅問題は、多くの課題を孕んでおり、財源確保の問題を睨みつつ、住宅手当の可能性や誘導策と組み合わせた非過疎地域への住まい替えなどの政策を検討していく必要がある
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