研究課題/領域番号 |
16H03556
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
永野 仁美 上智大学, 法学部, 准教授 (60554459)
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研究分担者 |
長谷川 珠子 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40614318)
石崎 由希子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (50547817)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 障害者 / 障害者雇用 / 福祉的就労 |
研究実績の概要 |
本研究は、2013年の障害者雇用促進法改正により導入された「障害者差別禁止法理」が福祉的就労の場に浸透していく過程を明らかにすることを通じて、障害者が自律的な主体として、それぞれの持つ労働能力を活用し、就労に参加していくためには何が必要となるかについて検討することを目的としている。 1年目の平成28年度は、この目的に資するため、まず、国内外における障害者雇用・福祉的就労に関する法制度・議論がどのような状況にあるか、資料(裁判例を含む)の集中的な収集を行い(文献調査)、海外文献については、翻訳を進める作業を実施した。また、日本国内においては、6つの特例子会社及び1つのA型事業所において、インタビュー調査を実施し、上記改正法と障害者雇用・福祉的就労の実際について具体的な話を伺った。加えて、海外の状況に関しては、フランスにおいて現地調査を実施し、県の障害者センター(MDPH)や障害者求職センター(Cap Emploi)にて、障害者の雇用状況や求職状況についてインタビューすると同時に、障害者が全従業員の80%以上を占める適応企業及び福祉作業所(ESAT)で、障害者雇用の実際について話を伺った。その他、イタリア・トリエステでも、障害者雇用政策や、精神障害者が数多く働いている労働者協同組合に関する調査を実施した。 これらの調査によって、国内外の障害者雇用・福祉的就労の基本的な情報を確認することが可能となり、また、国内外の障害者雇用・福祉的就労の現場が、実際にどのような状況にあるかについての確認を行うことができた。こうした基礎的な情報の収集・調査を本研究の1年目に実施したことにより、法が障害者雇用・福祉的就労の実際に及ぼす影響について考察する素地を得ることができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の通り、平成28年度においては、国内外における法制度・議論に関して、資料(裁判例を含む)の集中的な収集を行うことができた。また、国内における特例子会社・A型事業所に対するインタビュー調査についても着実に進めていき、これまでの積み重ねを含め、20社以上に及ぶ調査を既に行うことができている。最終的な研究成果を生み出すための基礎資料の収集は、おおむね順調に進展していると言える。また、収集した情報の共有も、3者の間で十分に行うことができている。 海外における調査については、平成28年度においてドイツについても現地調査をすることとしていたが、これは平成29年度以降に繰り越しとなった。ただ、フランスにおける調査は、予定通り順調に進めることができた。とりわけ、フランスにおいて、大きな障害者施策の改革があった2005年以降の変化について、現地調査を行い、障害者雇用・福祉的就労に関わる方々の話を伺うことができたのは大きい。インタビューを行った方々からは、今後も補足的な情報を頂けることとなっている。さらに、平成30年4月からの精神障害者の雇用義務化を踏まえ、精神障害者の地域生活支援が世界の中でも進んでいるトリエステでの調査も実施することができた。トリエステでの調査は、新たに加えた調査であるが、トリエステでの精神保健に関する取組みから、精神障害者の働き方についての新たな視座を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降も、引き続き、国内外における障害者雇用・福祉的就労に関する法制度・議論に関する資料(裁判例を含む)の収集を行うとともに、国内外における障害者雇用・福祉的就労の実際について、インタビュー調査を実施していく予定である。国内については、特に、障がい者ダイバーシティ研究会や全国重度障害者雇用事業所協会と協力しつつ、企業や福祉事業所が、新たに導入された障害者に対する差別禁止や合理的配慮に関して、どのような対応を行っているのかについて、調査を実施していくことを予定している。また、海外における状況については、平成29年度にはフランス及びアメリカにおいて、平成30年度にはドイツにおいて、調査を行う予定である。今後は、資料の収集だけでなく、収集した基礎資料の分析にも力を注ぎたい。 また、本研究は、事業者や事業主が自ら作り出すルール、すなわち、ソフト・ロー(法的拘束力は有しないが、関係する人々・団体が守ろうとする規範)に着目して調査を実施する点に特徴があり、その点に本研究の意義があると考えているが、平成29年度以降は、特にこの点についての強化を図る予定である。具体的には、法社会学の研究者の協力を得て、法と社会(本研究においては、特に企業や福祉事業所)の関係について、考察を深めることとしたい。そのための基礎的な文献の収集、先行研究の調査も集中的に行いたいと考えている。
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