研究課題/領域番号 |
16H03574
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研究機関 | 独立行政法人国民生活センター(商品テスト部、教育研修部) |
研究代表者 |
松本 恒雄 独立行政法人国民生活センター(商品テスト部、教育研修部), 国民生活センター, 理事長 (20127715)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 消費者法 / 比較法 / 法政策学・立法学 / 集団的利益 / 集合的利益 / 拡散的利益 / 公私協働 |
研究実績の概要 |
本研究は、不当表示に課徴金制度を導入した改正景品表示法及び消費者団体による消費者の集団被害回復訴訟を可能にする消費者裁判手続特例法がともに2016年に施行されるという状況を踏まえて、消費者被害の救済に関する各種の法的手法と被害の抑止に関する各種の法的手法及び両者の相互連携のあり方について、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、ブラジル、中国の6か国を比較法研究の対象として行い、今後のわが国の消費者法・政策の進むべき方向性を提示することを目的としている。 各国の比較は、消費者被害の救済と抑止をどのような法主体がどのような手法によって行っているのか、抑止のために違法行為を行った事業者への金銭的不利益賦課がどのように実現されているのかという観点から行う。 ①ドイツではいくつかの法律に基づいて消費者団体や多数被害者による損害賠償や利益はく奪の訴訟制度が存在し、また行政による事業者への経済的不利益賦課制度が存在すること、②フランスでは日本と同じ時期にほぼ同じような内容の消費者団体による集団被害救済制度を導入し、すでに十数件の訴訟が提起されていること、③イギリスでは地方自治体の取引基準局の職員が刑事法の執行の形で消費者保護を実質的に行っていること、④アメリカでは法の実現のための私人の役割を重視することから私人による差止訴訟や懲罰的損害賠償が認められ、また行政機関であるFTCからの請求による消費者被害回復の制度も存在すること、⑤ブラジルでは集合的・拡散的利益の保護のために、消費者団体のみならず、むしろ検察官が民事手続の面でも訴訟主体として活躍していること、⑥中国でも同様の発想から公益訴訟の制度が最近導入されて省級以上の消費者協会に訴権が与えられ、既に数件行われているとともに、アメリカ的な発想から懲罰的賠償の制度や行政による制裁金賦課の制度が導入されていることなどが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、本研究を推進するための組織として独立行政法人国民生活センターに設置された比較消費者法研究会を4回開催した。 第1回全体研究会(4月2日)では、現地調査及び研究の進め方について全員で議論するとともに、ドイツの担当者から「ドイツにおける消費者被害救済と抑止手法の概況」についての報告が行われた。 第2回全体研究会(7月23日)では、フランス、アメリカ、ブラジルの担当者から、それぞれ、「フランスの不当な消費者取引に対する制裁と被害回復制度」、「アメリカ合衆国における消費者被害救済と抑止手法の概要」、「ブラジルにおける消費者被害救済のための金銭支払制度」についての報告が行われた。これら2回の研究会での意見交換をベースに担当者による初年度の現地調査が行われた。 10月1日から消費者裁判手続特例法が施行されたことを記念して、第3回全体研究会を兼ねて、11月12日に慶應義塾大学法学部と共同で、「日本ブラジル国際シンポジウム2016」を開催した。ブラジルから同国の集団訴訟制度の創設に携わった研究者や法律実務家を招聘し、「ブラジルにおける集団訴訟制度を通じた消費者被害救済と抑止手法の現況」をテーマに、講演と日本の有識者をまじえた活発な議論が行われた。 第4回全体研究会(1月22日)では、イギリスの担当者から「イギリスにおける消費者被害救済と抑止手法の概況」について、現地調査に基づく報告がされた。6月4日の比較法学会シンポジウム予稿を兼ねた平成28年度研究成果報告書をまとめることが決定され、3月末に国民生活センターのウェブサイトにおいて公表された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的を達成するために、研究代表者、連携研究者、研究協力者等による研究会を平成29年度は4~5回開催する。 6月4日に、明治大学で開催される比較法学会第80回総会でのシンポジウムとして、「消費者法の発展―被害の救済方法と抑止方法の多様化」が、本研究の中間報告の形で行われる。本研究の分析視点を提示して学会参加者からコメントを得るとともに、平成28年度の調査研究を踏まえた各国法の状況について担当者が報告して、参加者から質疑を受ける。このシンポジウムの準備のための研究会を4月末に開催する。 比較法学会における質疑や新たな視点の指摘を踏まえて、さらに各国において調査すべき点を明らかにしたうえで、夏休みから秋にかけて、各担当者が担当国を訪問して、研究者及び関係機関へのヒアリング調査や文献収集を行う。比較法学会シンポジウムの総括と今年度の海外調査の準備のための研究会を夏休み前に開催する。 現地調査に基づく報告とその討議のための研究会を秋から冬にかけて2~3回行うとともに、2018年11月に本研究の最終報告に近い形で行われる予定の日本消費者法学会総会でのシンポジウムにおいてわが国の消費者法・消費者政策の進むべき方向性を打ち出すための準備を進める。
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