研究課題/領域番号 |
16H03577
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 文明 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (00126046)
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研究分担者 |
山岸 敬和 南山大学, 国際教養学部, 教授 (00454405)
宮田 智之 (近藤智之) 帝京大学, 法学部, 講師 (00596843)
菅原 和行 福岡大学, 法学部, 教授 (90433119)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アメリカ / 民主党 / 共和党 / イデオロギー的分極化 / トランプ / ポリティカル・コレクトネス / 同盟 / ティーパーティ |
研究実績の概要 |
重要な成果としては、近年のアメリカ政治における分極化現象の一つであるポリティカル・コレクトネスをめぐる民主党支持者と共和党支持者の亀裂に関して、とくに白人の間の分裂、さらにいえば高学歴白人と低学歴白人の間のそれとして捉えて、日本比較政治学会の共通論題で報告し、またペーパーを提出したことである。これはさらに加筆修正され、年報比較政治に掲載予定である。特筆すべき現象としては、1990年代半ばには支持政党に関して、共和党寄りという点でほとんど同じ傾向を示していた高学歴白人と低学歴白人がとりわけ2010年以降、すなわちティーパーティ台頭とほぼ軌を一にして、支持政党を劇的に乖離させ、その傾向はトランプ登場以降、さらに拍車がかかっていることである。すなわち、前者、とくに高学歴の白人は強く民主党を支持するようになり、逆に低学歴白人は共和党支持を強めている。アメリカでは白人と黒人のどちらが得をしているかという問いに対して、圧倒的多数の民主党支持者は白人と答えるが、ほぼ同数の共和党支持者は黒人と回答する。 こんにちの支持政党における分極化現象の根底には、このような人種問題あるいはポリティカル・コネクトネスの問題についてのきわめて根本的な見解の相違が横たわっていることを認識することが、分極化現象の原因を解明するためにも、さらにはトランプ現象の理由を説明するためにも決定的に必要とされている。 ここで指摘された共和党支持者の低学歴化と関連して重要なのが、その外交政策に対する含意である。その内向き姿勢はトランプによる保護貿易主義的態度、反不法移民の立場と整合的であるが、同時にこれまで共和党で支持されてきた国際主義的安全保障・外交政策に対しては懐疑的である。この点について、日米同盟を素材としてアメリカ学会年次大会の会長講演において指摘した。本講演は同学会の英文の年報において刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
とくに本年度は、「研究実績の概要」で記した通り、主要な学会の共通論題あるいは会長講演といった形で、これまでの研究成果を世に問うことができた。さらに、最近のアメリカ政府による対中国政策についての論文(すでに2019年3月に脱稿ずみ)がAsia Pacific Review, 2019年5月号に掲載される。本論文は、イデオロギー的分極中で政策案が果たす役割につき、対中国政策を事例に分析したものである。 これらの比較的大きな成果を含めれば、本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断して大きな間違いではないであろう。
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今後の研究の推進方策 |
2018年中間選挙での事例について、資料収集は進めてきたが、それを整理し、理論化を目指す。同時に、2020年大統領選挙も実質的に始まりつつあるため、これも視野に入れて分析を進める。 理論的に整理が容易でないのは、トランプ的立場とイデオロギー的分極化の関係である。一方で不法移民、白人中心主義、ジェンダー、ポリティカル・コレクトネスなどとの関係では、トランプの言動や立場は分極化を推進する機能を果たしている。他方で、保護貿易主義、孤立主義、インフラストラクチャー構築推進といった争点に関しては、トランプの立場は民主党と重なる部分も多く、分極化を緩和ないし攪乱する作用を及ぼしている。この点では、エリーティズム対ポピュリズムという、異なった対立軸を導入して分析する必要もある。このような点について、本年度はより深く掘り下げて分析していきたい。
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