研究課題
本研究は、経済学の歴史という視点から、戦争と平和の問題を扱う論考である。最終的には《経済学の浸透は国際紛争の緩和に貢献しうるか》という難問に答えることを企図している。その特徴は、まず全体的な見通しを与えた後、本論で経済学の黎明期・転換期・完成期に応じて、イギリス・アメリカ・スウェーデンの経済学者の眼を通じて、戦争と平和の多様な経済的思考を論じた点にある。3つの場面を想定するのが有用である。第一の場面は、経済学の生誕から確立までである(18世紀末から19世紀初頭)。経済学の貢献は、新しい資源フロンティア(資金制約の緩和)を実現したこと、その余剰資金をどのように振り分ければ、望ましい生産・分配・交換・成長が可能かを理論的に示したこと、自由貿易を支える諸法則を発見して《通商による平和》に理論的根拠を与えたこと、に集約される。経済学の浸透は国際紛争の緩和に貢献しうるか、Yesと答えるには重大な保留条件がある。第一に、本研究が明らかにしたように、経済学の浸透で国際紛争の増長に手を貸す可能性を常に忘れてはならないこと(科学者の社会的責任)。第二に、経済学の内外にある二重の通念(経済=通商=平和;戦争・平和は経済学の外部与件)は常に疑うべき対象であること。この保留条件を忘れず、理論・政策・歴史のあらゆる局面で、どのような条件で貢献できるかを問いかけていく姿勢で今後も必要となろう。限りある資源の効率的な使用法を価値(定性的)からも価格(定量的)からも考察可能で、しかも経済という核から他領域に接合する様々なアイデアも充実している──これが経済学の最大の強みである。経済学の歴史(経済思想)は、正統的な思考と異端的な思考をバランス良く提示することが、その責務の一端である。この提示によって、上記の三要素①②③の観点からも、経済学の強みを積極的平和の実現に向けて発揮させることが可能ではないか。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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