金融市場での資産取引の結果として,その取引価格が観測されるが,その価格は時々刻々と変化する市況や流入してくる情報により変動している。また,その観測された価格から導かれる収益率が従っている確率分布は,平時の市場と価格急落時の市場とでは異なっていると考えられる。これまでマクロ金融時系列に対して,バブルが生じているかどうかの統計的な検出方法と,それを市場のクラッシュの検出へ応用するアプローチが先行研究において提案されている。しかしながら,観測データの頻度は高くても日次であり,市場急変の予兆をとらえるという本研究の目的には,からなずしもあっていない。大屋は,この先行研究で提案されている統計的手法を実際の市場で生じたクラッシュの前後で,高頻度価格データに対して適用し,その統計手法の精度を検証し,有効性を確かめた。この成果は金融実務家向けの『先物オプションレポート』に掲載された。高橋は電子商取引を中心に広く普及している推薦システムを応用することで個別株式銘柄の高頻度領域(短時間)での市場クオリティ(流動性およびボラティリティ)を評価する方法論を提案し,その有効性を実データにより検証した論文を,国内学会で発表した。この論文は,Japanese Journal of Statistics and Data Science (JJSD) に掲載予定である。また,金融資産の収益率とその変動(ボラティリティ)を同時に定式化するRealized Stochastic Volatility (RSV) モデルについて,他のボラティリティモデルと共に既存研究を論文としてまとめ,「統計数理」に掲載された。新谷は国債市場リスク,物価上昇率,経常収支等のマクロ経済変数を利用した動学モデルをつかい経済状況を的確にとらえるためのアプローチの研究を行った。
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