研究課題/領域番号 |
16H03630
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 大司 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (80346139)
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研究分担者 |
横山 泉 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (30712236)
西脇 雅人 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (80599259)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 労働経済学 |
研究実績の概要 |
平成29年度は2つの研究を行った。 一つは企業行動に関する分析であるが、企業活動基本調査を用いて為替レート変動が、無期フルタイム労働者とそれ以外の労働者の雇用調整に与える影響についての分析をおこなった。分析結果を論文に取りまとめ国際学術誌に投稿したところ、改訂要求を受けたため、論文の改訂を行い、再投稿をした。分析の結果、輸出企業は円の増価に対して無期フルタイム労働者以外の労働者を削減することで雇用調整を行う一方で、無期フルタイム労働者に関してはタイムラグを置いた上で雇用調整を行うことが明らかになった。また、分析に当たっては為替レートの変動が起こるタイミングと雇用調整が起こるタイミングのずれを考慮した動学的な推定を行うことが重要であることも明らかになった。無期フルタイム労働者の雇用調整とそれ以外の労働者の雇用調整が異なることについては、無期フルタイム労働者の採用・育成・解雇には一定のコストがかかることを想定することで合理的に説明できることを論証した。 もう一つは派遣事業者の行動に関する分析である。厚生労働省「派遣事業者業務報告」の事業所レベルのデータを一般派遣事業者に関して統計的分析ができるように整理した。都道府県ごとの派遣事業者の競争を測定し、競争度合と派遣料金と派遣労働者賃金の差額を示すマージン率の関係を調べた。現在までのところ、競争が緩い都道府県においてマージン率が高くなる傾向が観察されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要欄に記したように、平成29年度までに研究計画に従って二つの研究を並行して行ってきた。一つは企業行動に関する分析であるが、複数データのマッチには技術的困難が伴うことが明らかになったため、企業活動基本調査のみを用いて為替レート変動が雇用形態が異なる労働者の雇用調整に与える影響についての分析をおこなった。分析結果を国際学術誌に投稿し、コメントが付されて再投稿を促されたため、コメントに対応して再投稿をしたところ、さらにコメントが付されて再投稿を促されている。現在はそれらのコメントへの対応をするために統計的な分析を終えたところである。 もう一つの研究計画である派遣事業者の行動に関する分析でについては、厚生労働省「派遣事業者業務報告」の事業所レベルのデータを統計的分析ができるように整理した。都道府県ごとの派遣事業者の競争を測定し、競争度合と派遣料金と派遣労働者賃金の差額を示すマージン率の関係を調べた。現在までのところ、競争が緩い都道府県においてマージン率が高くなる傾向が観察されている。職種別のマージン率を見てみても、労働者の特殊性が高く、労働市場が薄いと思われる業種でマージン率が高くなる傾向が観察され、派遣労働者の労働市場の競争度合がマージン率に影響を与えることが示唆される。また、これらの関係は、各派遣事業主の労働者派遣の期間が異なること、職業訓練機会の多寡が異なることなどの異質性を考慮しても、頑健に観察されることも確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、平成30年度には二つの計画を実施する。 企業データを用いた労働市場の分析に関しては、企業活動基本調査を用いた為替レートショックへの雇用調整行動の分析に関して、論文の改訂を終え、学術誌への再投稿を終え、最終的な出版を目指す。また、本来の目的であった、雇用主労働者マッチデータの作成に向けて、厚生労働省の賃金構造基本統計調査、雇用動向調査、総務省の事業所企業調査、経済産業省の工業統計、商業統計、企業活動基本調査の名簿情報をも含めた個票の利用申請を行う。これらのデータの所在地、事業所名などの情報を用いてマッチデータを作成する。作成したマッチデータを用いて生産関数を推定し、労働者属性ごとの限界生産性を推定する。 2つ目の厚生労働省の労働者派遣事業報告の個票データを用いた分析であるが、分析結果を論文の形にまとめ、一橋大学で行われる研究会にて発表を行い、その結果を『経済研究』誌に出版することを目標としている。さらにデータの範囲を一般派遣労働事業者から特定派遣労働事業者にまで拡大するとともに、派遣法改正以降の時期も射程に入れることによって、派遣法改正によって特定派遣労働事業者を禁止することを通じて競争条件が変化したことが、派遣事業者の行動をどのように変化させたのかも分析の射程に入れる。データとともに分析手法も拡張し、研究分担者とも協力しながら産業組織論など労働経済学以外の分野からの視点を通じて分析をさらに深めることができないかを検討する。
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