研究課題/領域番号 |
16H03654
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
軽部 大 一橋大学, 大学院商学研究科, 准教授 (90307372)
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研究分担者 |
福川 裕徳 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (80315217)
内田 大輔 九州大学, 経済学研究院, 講師 (10754806)
鳥羽 至英 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (90106089)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 専門職組織 / サービス / 品質管理 / 組織化 / 制度化 |
研究実績の概要 |
計画の初年度(平成28年度)は、(I)先行研究に基づく仮説の導出、および(II)パネルデータセットの構築の二つの作業を柱に研究活動を推進した。 (I)文献サーベイに基づく研究課題の抽出・検証と作業仮説の構築:(1)近年台頭しつつある専門職組織に関する組織論研究、(2)社会ネットワーク分析を援用する組織論研究および(3)新制度派組織理論における「制度ロジック(institutional logic)」に注目した組織論研究を中心に、先行研究の文献サーベイを体系的に行い、主要な研究課題の導出と作業仮説の構築・深化を行った。 (II)データの収集・入力・コード化・検証作業の推進とパネルデータセットの構築:また、パネルデータセットの構築を目的としたデータの収集・入力・コード化・検証作業を推進した。パネルデータセットは、「組織能力の解体・組織間移転メカニズム:マルチレベル分析に基づく学際的実証研究」(基盤研究B:2011年~2013年)で構築された2000年代のデータを、約40年間さらに過去に遡及する形で大幅な拡張を試みるものである。データ構築作業は予定通り進捗しており、約55年間の長期に渡る個人と個人の協働とその変化、個人と所属法人の協働とその変化、会計士個人・所属監査法人と監査先企業との取引を通じた協働とその変化を同定することが可能となりつつある。 初年度は、新たな試みとして、別途日本の上場企業の修正再表示データ(2002年から2015年)を別途収集し、会計士データとマッチングするという作業を行い、会計過誤を引き起こす会計士が、事後的にどのように処遇されるか、という観点から研究を行った。その暫定的実証結果は、米国の国際学会で発表(査読付き)し、現在国際査読誌へ投稿中である。また、研究代表者が上記データを活用した章を含む一冊書籍を出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)仮説導出作業について:合併効果について新規企業獲得という観点から研究を行う作業が十分に進んでいないため、それを加速させる必要がある。2017年10月初旬に英語編集書籍への投稿機会を利用して、その作業を加速することを計画している。 (2)データ構築状況について:パネルデータの構築作業は順調に進んでいるが、さらに加速する余地が残されている。具体的には過去に提出された『有価証券報告書提出名簿』を活用することで、特に欠落値が多く見られる1980年以前のデータについて補完する作業を行う必要がある。それを行うためには、研究補助者を増員する必要があり、それにより2017年度8月末を目処に当初予定していたデータセットの完成を計画している。 (3)修正再表示と組織の処遇について:現在研究活動の中核作業として、修正再表示に関する個人データを構築し、その頻度とタイミング、所属組織による処遇の関係を検討する作業を進めている。当初想定していたよりも、速いペースで作業が進捗しており、学術的にも大変貴重な知見を見いだしつつある。具体的には、修正再表示につながる監査業務を行った会計士の処遇が、大手と非大手で大きく異なり、また、所属法人への貢献が大きい会計士ほど修正再表示を起こした責任が問われにくい、という事実が確認されつつある。このことは、監査法人のサービスの品質を直接検討した実証的知見として価値あるものであり、実務的にも意味ある知見になる可能性がある。 (4)上記の実証的知見をさらに深く、後半に蓄積していく必要があり、そのためにより監査品質の結果とともに、監査品質を規定する原因変数にも注目する必要があると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究を推進する上で、2017年度半ばにはデータセットを完成し、実証的観点から様々に構築されつつある仮説を随時検証していくことが必要である。 具体的には、さらに3つのタイプの研究を推進していくことを特に2017年度の目標とする予定である。第一に、専門職組織の合併による能力構築への影響を、個人と組織の二つのレベルから検討していく研究である。これは一方でサーベイ論文としての公刊を目指し、他方で実証論文としての投稿まで終了することを2017年度の目標としたい。 第二に、現在進捗しつつある修正再表示データを大別して二つの視点からさらに深く掘り下げることを2017年度の目標としたい。具体的には、修正再表示がもたらす帰結に関する研究であり、先行して進められる研究をなるべく査読付き論文として公刊することを目標としたい。修正再表示に関わる会計士の処遇は、明らかに組織間で大きく異なっており、同時に組織内でも異なっている。この点を深く追求していくことにより、専門職組織の品質という今まで未開拓だった問題に関する理解が大きく前進する可能性があると考えられる。 さらに、第三として、修正再表示の原因に注目する研究も新たに推進していく予定である。これについては、会計系の査読誌を念頭に置いて、作業を加速することを2017年度の目標としたい。修正再表示のデータセットは2万ケースに及ぶユニークなデータセットであり、データの独自性という観点でもデータ分析の独自性という点でも、注目すべき研究成果につながる可能性がある。 最後に、第四として、具体的な組織的な不正に関する事例研究も推進していくことを計画している。統計的な推計を主眼とする我々の研究アプローチにおいても、研究アプローチの補完性という点で事例研究を通じた事例の多面的解釈は必須である。
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