研究課題/領域番号 |
16H03668
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
岡田 克彦 関西学院大学, 経営戦略研究科, 教授 (90411793)
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研究分担者 |
羽室 行信 関西学院大学, 経営戦略研究科, 准教授 (90268235)
高橋 秀徳 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (90771668)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グラフ理論 / ネットワーク / ハーディング / 株式市場 / Return predictability / Asset Pricing / 情報伝播 / 証券アナリスト |
研究実績の概要 |
投資家のハーディング行動が資産評価に与える影響についてこれまで研究を進めてきたが、平成28年度の主たる研究成果は以下の3つに分類できる。 ①投資家のハーディングを、株式リターンの類似性を用いてとらえる手法を開発した。具体的には任意の2銘柄間のリターンの類似性を、銘柄を「ノード」、リターンの類似性の有無を「枝」として表現したグラフ構造を考える。全上場銘柄を対象に任意の2銘柄を選択するため、全上場銘柄間に類似性が認められれば、800万本の枝(全上場銘柄数を4000銘柄として)が貼られることになる。株価変動の中で、この枝数は時々刻々と変化するが、投資家がハーディングしている時は、枝数が急増するため、枝数の測定を行なうことで、相対的に投資家がどの程度群集行動に走っているかを把握することが可能となる。この手法を活用することで、株価がファンダメンタル価値から乖離するタイミングを測定することができる。この成果は2017年人工知能学会報告論文として2本にわけて公開してい る。 ②株価分析のプロである証券アナリストは市場に大きな影響を与える。とりわけ証券アナリストがハーディングを引き起こしている場合、株価に与える影響は非常に大きい。この点に光を当てるため、日本証券業協会による決算プレビューの禁止というnatural experimentを利用し、証券アナリストのハーディングについて明らかにした。この研究は論文化され、台湾における国際学会で報告され、Best Paper にノミネートされた。 ③投資家のハーディングがどのように伝播していくのかという点について明らかにするために、取引関係ネットワークを用いたところ、ネットワーク経由で伝播することが明らかになった。結果については人工知能問題研究会(SIG-FPAI)で報告され、実務的応用可能性の高さから日本経済新聞にも紹介された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私たちの研究プロジェクトが順調に進展していくために最も大きなボトルネックとなり得たのは、以下の2点であるが、これらが解決されたため研究が進展した。 ①計算環境:本研究では、投資家のハーディングを株式リターンの類似性を用いてとらえる手法を開発し、定量化した。それを時系列に観察して検証を行なうのであるが、これには莫大な計算量を伴う。任意の2銘柄間のリターンの類似性を、銘柄を「ノード」、リターンの類似性の有無を「枝」として表現したグラフ構造を、全上場銘柄を対象に構築し、それを長期間にわたって観察しているからである。計算量として概算すると、800万本の枝(全上場銘柄数を4000銘柄として)を貼るか否かの判断を10000日(過去40年の検証)にわたって行なう必要があるため、800億回の類似度計算が必要となる。これを迅速に処理するためには、スパコンの使用が不可欠となるが、現在、統計数理研究所と共同研究契約を結んで、彼らのスパコンを使わせてもらっている。他研究所のハードウェアを活用することが奏功して、研究が予定通り進展した。 ②データの入手:証券アナリストのハーディング行動が資産価格評価に与える影響を調査する上で、もっとも大きな障害となるのが、証券アナリストのコンセンサスや格付け変更といったデータの取得である。なぜなら、証券アナリスト関連の情報については、各証券会社が取引先企業にのみにしか開示しておらず、通常のデータプロバイダーの端末からは入手が難しいからである。そこで私たちの研究チームでは、企業と共同研究し、研究成果をフィードバックすることで、企業が保有する証券アナリスト関係のデータを取得し研究を進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
投資家ハーディングの資産評価への影響を解明するため、平成30年度はハーディングがどのように伝播していくかを明らかにしていく。そのため、以下のステップで研究を進める。 ①突然株価が上昇(下落)する銘柄群を特定する。これらの銘柄には何らかの情報が入っていると考えられるからである。 ②企業価値が急速に変化するこれらの企業を、企業間ネットワークの中で認識する。 ③突然株価が変化する企業と関連性の高い企業について、観察する。 ④ファンダメンタル価値と無関係に、関連性の高い企業に同方向での変化が見られるのであれば、ハーディングの伝播と捉えることが可能になる。 投資家のハーディング行動がどのように市場に拡散していくかという点を明らかにするにあたって、もっとも大きな障害となるのが企業間の関係性データの取得である。現時点の関係性であれば現在の情報から揃えることが可能であるが、過去における企業間関係についての情報収集は困難である。そこで、私たちの研究チームではFact Set社が提供するRevere Network Dataを利用することにする。本データは高価であり、簡単には入手できないが、企業と共同研究し、研究成果をフィードバックすることで、本研究課題のために使うことが可能となった。
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