研究課題/領域番号 |
16H03672
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
藤村 和宏 香川大学, 経済学部, 教授 (60229036)
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研究分担者 |
高室 裕史 流通科学大学, 商学部, 教授 (30368592)
小林 哲 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 准教授 (60225521)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 便益遅延性 / 顧客満足 / 医療サービス / 教育サービス / ワーク・モチベーション |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績としては、①本研究の鍵概念である「便益遅延性」を教育サービスにも適用するために、この概念を顧客の達成目標の観点から再検討、②教育サービスにおける「便益遅延性」の確認とそれがもたらす諸問題、および解決策を経験的考察するために、教育サービス組織に共同研究の依頼を行い、協力組織の獲得、③平成28年度に共同研究の協力を得られた教育サービス組織から学生の授業科目の試験成績や資格試験結果に関する情報を収集することで、「便益遅延性」がもたらす問題と成長(成否)の分岐点となる時期の解明、④経営者育生のために開発されたマネジメント・ゲームが「便益遅延性」の低減に貢献できる可能性があることから、その特徴と効果を明らかにするために、マネジメント・ゲームの開発者や参加者にインタビュー調査の実施と分析、⑤昨年度に実施した介護サービスに従事する職員に対するアンケート調査の結果を分析することにより、介護職員が職務遂行過程で享受する便益の観点から「便益遅延性」を考慮したワーク・モチベーション・モデルの構築、といった5つのことを行った。 なお、①については、「便益遅延性」を「生起遅延性」「知覚遅延性」「目標達成遅延性」の3つから構成される概念として捉え直すことで、顧客が目標とする水準によって遅延性の程度が異なることから、顧客の目標を向上させながら,同時にそこで生じる「便益遅延性」を削除することがマーケティングの課題となることを明らかにした。さらに、これらの課題を解決する方策について検討した。 ②については、新たに医療系の専門学校から研究協力を得ることかできたことから、教員や卒業生に対してインタビュー調査に実施した。この結果の分析により、学習者の目標水準によって彼らの参加状況が異なり,遅延性にも影響を及ぼすことが仮説として構築されたことから、その検証のためのアンケート調査票の作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
教育サービスにおける機能的便益、感情的便益、および価値観的便益が顧客(学習者)の満足や参加に及ぼす影響、機能的便益の享受において遅延性が生じている期間における感情的便益と価値観的便益の果たす役割、遅延性の程度に影響を及ぼす要因などを考察するには、研究に協力してくれる教育サービ組織が必要とされるが、平成28年度に1校、平成29年度に1校の協力を得ることができた。なお、平成28年度に協力を得られたのは会計系の資格試験のための専門学校であり、平成29年度に協力を得られたのは医療系の資格試験のための専門学校である。これらの2校の教員や卒業生に対してインタビュー調査を実施することによって、教育サービスにおける「便益遅延性」を考慮した顧客満足モデルを構築できたことから、平成30年度からはこのモデルを検証するための継続的なアンケート調査を2校で実施する予定である。平成30年4月からは医療系の専門学校で調査を開始し、平成30年度~平成32年度の入学生に対して入学から卒業までの期間に継続的に調査を実施することになった。この医療系の専門学校は3年生であり、各学年において2~3回の調査を実施するとともに、入学から卒業までの学生の授業成績も得ることが可能になったことから、学生の習熟に関する貴重な時系列データを得ることかでき、研究の発展が期待される。また、同校からは、卒業後も継続的に調査を実施することを期待されており、長期間の学習者の成長モデルの構築が可能になった。 また、教育サービスを研究する過程において、マネジメント・ゲームが経営者育生における遅延性の解決に貢献できる可能性があることに気づき、その開発者やゲームへの参加者にインタビュー調査を実施することができた。これにより、多面的に学習者の習熟モデルの構築と成長における「便益遅延性」の低減について検討することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
医療系の専門学校の学生を対象とする継続的アンケート調査は4月の入学生から開始することから、とりあえず入学時に実施する調査票を作成するとともに、学習が進んだ段階で機能的便益や感情的便益、価値観的便益の享受状況やそれらの生成に影響を及ぼす要因を把握するための調査票を作成する。しかし、専門学校の学生を対象としての「便益遅延性」を考慮した顧客満足にかかわる調査票(質問項目)はこれまでは全く作成されていないことから、ベースとなるものが存在しない。このことから、3つの便益の享受状況、顧客満足、顧客の期待する達成目標や学習プロセスへの参加状況、品質要素の認識状況などを測定するための調査票案(質問項目)を作成した上で、平成30年度に2年生と3年生になる学生を対象として試験的な調査を4月に実施し、その結果分析に基づいて調査項目を精選することによって、平成30年度入学生の習熟を追跡するための継続的調査に用いる調査票を作成する。なお、同じ学生に対して同じ内容の調査票を用いた調査を継続的に実施することから、学生の回答の利便性および調査データの入力・保存の効率性を考慮し、調査の大部分はインターネットを通じて行う予定である。そのため、インターネット調査システムへのアクセスを容易にするとともに、回答者を個別認識してデータの保存や回答状況をチェックできるように、藤村研究室のホームページのシステムを改善する予定である。そして、このような継続的調査から得られたデータを用いることで、教育サービスにおける3つの便益の享受における遅延状況やそれらの顧客満足に対する影響などを明らかにすることにより、「便益遅延性」を考慮した学者者の満足形成および参加形成モデルの構築を行う。 また、会計系の専門学校の学生を対象とした調査票も上記の調査票をおよび分析結果を参考にして作成し、同校での調査を開始する予定である。
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