本研究課題全体の目的は、ある災害リスク対策を実施することで、その個人の別のハザードへのリスク認知や対処行動はどのように変化するのかを検討することである。あるリスク対策の実施が別のハザードのリスク認知を高めるのか低めるのか、災害準備行動を促進するのかそれとも抑制してしまうのかは、理論的に興味深いテーマであり、さらに、実務的にも重要な問題といえる。 本年度は、主に昨年度実施した全国調査(層化2段階無作為抽出法により115地点、2000サンプルを抽出、調査員による訪問留置、訪問回収法、回収率は54%)のデータ分析を進めた。結果から以下のことが明らかになった。(1)災害用食料の備蓄、災害用飲料水の備蓄、災害用トイレの用意、非常用持ち出し袋の用意、災害時の連絡方法を家族で確認、懐中電灯を即座に利用できる場所に配置、という6種の震災準備行動はお互いに高い正の相関を示した。つまり、ある対策を行うとそれ以外の対策実施の動機づけが低下するというsingle actionバイアスは認められず、むしろ、全体をセットとして実施する傾向が示唆された。(2)各種ハザードへの不安は、震災への不安を含めて、全体として相互相関が正の方向に高かった。つまり、不安の総量が有限であるハザードへの不安が高いと他のハザードを軽視するというfinite pool of worry説は支持されなかった。(3)6種の震災準備行動のうち、前2者は地震への不安評定と有意に関係せず、後ろ4者については正の相関が見られたが、説明率はきわめて低かった。つまり、全体としてリスク認知が準備行動レベルを説明しないというrisk perception paradoxを支持する結果となった。 分析結果は日本社会心理学会や日本リスク学会で発表した。
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