本研究は、SNS利用リスクに関わるユーザの社会的認知特性およびその背景メカニズムを解明するとともに、その知見を応用したリスクリテラシー教材を開発することを目的としたものである。研究課題最終年度である平成30年度は、リスク認知や感性評価に影響を及ぼす個人の認知特性の解明に関する基礎的検討を継続するとともに、それらを踏まえたSNSリスクリテラシー教材の開発・改良、さらに中高生を対象とした講座の実施、学術論文や学会発表を通じた成果発表を行った。たとえばリスク認知の個人差特性に関しては、認知熟慮性という認知特性によりSNS利用者を直観群と熟考群に分類してSNSに関するリスク認知やトラブル経験を比較したところ、熟考群は直観群と比較してリテラシーが高い一方で、自己リスク楽観視の度合いも強く、トラブル経験も多いことを統計的に明らかにした。この成果の一部を日本教育工学会論文誌に査読付論文として年度内に速報した。また、中高生を対象とした講座を実施し、その受講者評価を分析したことろ、当教材を用いた講座は中学1年生から高校3年生まで全学年において高評価であり、理解度も高かった。さらに、講座受講後は自己リスクの楽観視が消失し、自他共にSNS利用リスクを高く推定した。以上の結果から、本研究の目標であるSNS利用リスクの楽観視を低減させる情報モラル教材の開発が達成されたといえよう。なお、教材の効果検証や楽観視の低減プロセスに関しては、調査や分析を継続し、今後も成果発表を進めたい。
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