研究課題
心理学研究では、第1に、4年間の研究期間後半で実施する予防や介入の資料とするために、過年度までの研究で得られたデータを分析した。その結果、4件の学会発表および7本の論文として公開することができた。第2に、「新型うつ」を不快と判断する原因の1つと考えられるうつ病休職中の行動について、大学生272名、会社員800名(管理職・非管理職400ずつ)を対象とする調査を行った。予備的な分析の結果、休暇中の様子をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で発信することが、同僚を特に不快にさせることがわかった。第3に、36名の女子大学生を対象に授業を利用して「新型うつ」とされる人に対する否定的なイメージを低減させる啓発教育を行った。年度前半で昨年度までの成果を踏まえて教材を作成し、年度後半で実践を行った。現在データ分析中である。なお年度末には、本年度中に実施した研究成果の一部を一般向けに提供するためのシンポジウムを開催した(2019年3月2日、「新型うつ」研究の最前線(2)―研究と実践の対話のために― 於:日本大学文理学部)。精神医学研究では、前年度に引き続き、「新型うつ」患者のリクルート・データ取得を行った。さらに、臨床患者をサンプルとして「新型うつ」の気質を計る自記式尺度TACS-22の開発に成功した。概して、大うつ病患者では血中トリプトファン値が高いことが知られており、未治療未服薬の大うつ病患者において健常者と較べて有意に血中トリプトファン値が低いことを見出した。興味深いことに、大うつ病患者19名のうち「新型うつ」と診断した大うつ病患者3名では血中トリプトファン値が低くなく、TACS-22のスコアが血中トリプトファン濃度と正相関することを見出した。本結果は、「新型うつ」の気質が生物学的な要素と関連し、「新型うつ」と従来型のうつ病では生物学的基盤が異なる可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
研究は概ね順調に進展していると判断した。3年目は、研究期間後半での研究に向けて過年度の研究成果をまとめる必要があったが、学会発表と論文掲載の数に表れているように、心理学研究、精神医学研究ともに順調に進んでいる。また、「新型うつ」が不快と判断される原因の一つとして、うつ病休職中の過ごし方があると指摘されているが、過ごし方のどのような点が問題なのかが研究により示唆された。この成果は、次年度の啓発教育にも活用されるだろう。さらに、大学生を対象に啓発教育を試行しており、この点においても順調に研究が進展している。新しく開発したTACS-22を用いた臨床データ取得をすすめる。
これまでの3ヶ年で、「新型うつ」とされる人が周囲からどのように捉えられているかに関して、知見が蓄積してきた。手短に言うと、従来型うつ病に関する啓発教育が普及したために、その枠組みで「新型うつ」とされる人を捉えてしまうためギャップが生じ、本人が苦しみを理解できないのである。特に、本人がうつ病から回復するためにとる行動(例:積極的気晴らし)やSNSで休職中の様子を発信することについては、同僚の嫌悪感は強い。本人は苦しみから逃れるためにそのような行動をとっていることは、従来のうつ病観で捉える限り、理解は難しいだろう。今後は、周囲の人の理解を高めるために、苦しんでいる本人の主観的世界を伝えるなどの工夫を凝らして、啓発の効果を検討したい。精神医学研究としては、「新型うつ」の病態に関与する心理社会的要因に加えて生物学的要因を引き続き、血液マーカー等の検索を行い、推進したい。
研究成果を広く知っていただくために、従来もっていたHPを廃止し新たなHPを開設・公開した(2019年4月)。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
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