研究実績の概要 |
MoCA-Jの標準値作成を目指す当該年度の研究として、地域縦断研究における6年間の追跡データを用いて、MoCA-Jの反復効果について検討した。東京都板橋区の住民基本台帳から東京都健康長寿医療センター周辺9町内在住の65歳~84歳の男女全7,162名を抽出した。2011年10月に参加希望者913名を対象にしてMoCA-J、MMSE等諸変数に関する調査を実施した(T1)。その後およそ1年間隔でMoCA-Jを実施し、6年後(当該年度、T6)にも同様の調査を実施した。T1とT6のMoCA-Jを完遂した311名(女性60.1%、T1時の平均年齢72.5±4.6歳)を分析対象とした。MMSEには変化がなかったものの(T1:28.3点, T6:28.1点)、MoCA-Jは有意に低下していた(T1:24.4点, T6:23.9点, p<.01)。認知領域ごとの分析では、視空間機能と見当識においては有意な低下がみられた(p<.01)一方、記憶機能においては有意な向上がみられた(T1:2.7点, T6:2.9点, p<.05)。5単語遅延再生課題の単語ごとに反復効果を分析したところ、いずれにおいてもT1からT6で有意に正答率が向上していた。5歳間隔の年齢群ごとに検査時期による5反後遅延再生課題の得点を分散分析により比較したところ、交互作用が有意であり、65~70歳および71~75歳の群ではT6の得点が向上していたものの、80歳以上の群では低下していた。言語機能、実行機能、注意機能では変化はみられなかった。地域における6年間の縦断追跡の結果、MoCA-JはMMSEでは検出されない認知機能の低下を検出することができていたと考えられる。また、MoCA-J平行版および視覚障害版についてカナダの研究グループから作成の了承を得てデータ採取を開始した。
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