研究実績の概要 |
本研究では, 手の運動発現に内在する眼球運動と関連した視覚処理の機序解明を目標としている. これまで,視覚処理は眼球運動と関連のない受動的な処理過程であるという前提で,視覚情報から手の運動情報に変換する処理過程が調べられてきた.しかし,手作業中に眼球と手は協調して運動することから,眼球運動を伴う能動的な視覚処理が手の運動発現と関わっている可能性が指摘されているが,その視覚処理機構は未知である.近年の研究により, 眼球運動に対して生じる適応効果が手の運動に転移することから,眼球運動システムの順応と関連していることが示唆される. この眼球運動の適応効果は,眼球運動後の視覚空間処理と関連づけられており, 手と眼球の協調運動においても眼球運動後の視覚信号の操作が鍵となると思われる. そこで本研究では, 眼球運動後の視覚信号が視空間の知覚にどのように寄与するのかを調べた. 眼球運動を伴うと, 眼球の動きにより網膜像が動いてしまうため, 眼を動かしても安定した視空間を知覚するための処理機構を視覚系は持つ必要がある. このような処理機構として, 眼球運動に変位検出能力の低下(サッカード変位抑制)による処理機構が古くから知られているが, 近年ではそのような抑制機構だけでなく別の処理機構の関与が指摘されている.実際には, サッカード抑制が生じている期間にターゲットを一時的に消失させると変位検出能力が改善する.また,サッカード中にターゲットを一時的に消失させ,周囲の刺激の位置をずらすと,周囲の刺激でなくターゲットの変位が知覚される.本研究は, これらの効果がターゲットの輝度コントラストに依存することを示し, 輝度過渡信号に選択的に応答する処理経路の関与を示唆した. この成果は, 視覚科学の国際一流誌であるVision Research誌に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 当初の予定通り, 新規に眼球運動計測器を導入し、現有の力覚提示装置と併用する実験環境を開発した. 眼球運動後の視覚処理特性を精査することに多くの時間を費やしたが, その基本特性の精査は終了し, 手の運動との関連を調べる実験に現在は着手している. 概ね, 実験準備は終わっている. 来年度は, より多くのデータを収集する予定である.
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