知覚における視聴覚情報の統合において、統合される視覚情報と聴覚情報の割合は環境に応じて柔軟に変化する。本研究では、学習によって視聴覚統合における重み付けを変化させ、この変化をベイズ理論に基づいて数値化することを目的とした。2018年度の研究では特に視覚と聴覚のモダリティとその時間特性に着目した。視覚モダリティにおいては、知覚情報処理が周期的に変動するという性質を用い、視覚情報の時間長の知覚が、その刺激が提示される前の視覚情報からの時間経過に応じて周期的に変動することを見出した。また、複数の時間情報が継時的に提示される場合に、視覚情報の表象に関係するノイズの量が、時間経過に応じて変容することを見出した。さらに、時間に関する視覚情報と聴覚情報の統合に関して、過去の刺激特性が現在の刺激の知覚に影響を及ぼす中心化傾向という現象に着目した。実験では、視覚刺激や聴覚刺激が単独で提示された場合と、同時に提示された場合における時間感度と中心化傾向を測定した。中心化傾向は情報の不確実性に伴って増加し、視聴覚の多感覚刺激は時間感度を向上させることを見出した。この結果に基づいて、時間情報の視聴覚情報の統合をベイズ理論を用いて説明するモデルを提案した。このモデルによって、事前分布の統合よりも先に視聴覚情報の統合が行われることが示唆された。一連の研究により、ヒトの脳は、さまざまなモダリティの感覚情報を統計的に最適かされた方法で統合することが示された。
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