研究課題
本研究の目的は、知覚的アウェアネス(気づきやすさ)の発生過程を、乳児の視知覚の実験を通じて明らかにすることにある。具体的には、選好注視法を用いて乳児の知覚発達を検討し、アウェアネス獲得以前の乳児の知覚世界が大人と全く異なるものであることを示していく。大人にとって認知が難しい視覚刺激がより幼い乳児にはむしろ容易に判断できることを、選好注視法を用いて示していくことで、逆に知覚的アウェアネスの成立以前と以後の知覚世界を浮かびあらせる。本計画では、この成立時期を、生後5カ月以降に生じる面、明るさ、色、動き、奥行などに関する「恒常性」維持の仕組みであるととらえ、現在我々のグループが取り組んでいる選好注視法をベースとした刺激呈示法などを用いて知覚的アウェアネスの発達過程を解明する。
2: おおむね順調に進展している
現在まで研究は順調に進行している。本研究計画では、乳児の視覚的アウェアネスを検討する目的で、まずは計画した陰影を手掛かりとして知覚的アウェアネスの検討を、計画書に記載したいわゆるchange detection paradigmを用いて選好注視を指標として実験しデータを収集中である。実験では、ターゲット刺激として、形状は変化せず陰影パターンのみが変化する条件(陰影変化条件)と陰影は変化せず逆に3次元形状が変化する条件(形状変化条件)の2種類の実験条件を設け、非ターゲット条件は、ISIのみを含むが画像が変化しない条件を設定した。現在も実験は進行中ではあるが、すでに低月齢児においては陰影変化に選好を示す一方、高月齢児においては形状変化に選好を示すなどの仮説通りの結果が得られており、今後の成果が期待できる。また、分担者の成果としては、視覚系が緩やかな速度変化よりも急峻な速度変化に容易に気づくことを示す結果を得ており、初期視覚系には鋭い加減速を検出するメカニズムが存在することが示唆されている。その他、乳児の知覚的アウェアネスの基礎となる数多くの知覚発達に関する成果も得ており、研究は順調に進捗している。
今後は、主に陰影と形状の変化に対するchange detection paradigmを用いた注視時間の測定を行っていく。本実験の最大のポイントは、低月齢において、通常大人では検出することができない画像の変化を検出できることを示す点にある。したがって低月齢児のデータが最も重要となるのだが、特に3か月前後の月齢が低い乳児については、被験者募集の観点からも集まりが難しく、また低月齢児は、実験中のfussinessなどの要因でデータが取れない確率も高いため、引き続きデータ収集を強化していく必要があると考える。あわせて、知覚、注意、の機能的側面、ならびにその認知神経科学的な側面についても、従来からの選好注視を用いた検討を行っていく。また、研究分担者と協力しながら、乳児の知覚的アウェアネスを探るための最適な刺激についての検討も行っていく。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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