研究課題/領域番号 |
16H03759
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
土井 妙子 金沢大学, 学校教育系, 教授 (50447661)
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研究分担者 |
小泉 祥一 白鴎大学, 教育学部, 教授 (30136410)
除本 理史 大阪市立大学, 経営学研究科, 教授 (60317906)
大島 堅一 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (00295437)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 公害・環境教育 / カリキュラム / 福島第一原発事故 |
研究実績の概要 |
本研究においては、福島第一原発事故による未曾有の環境汚染問題に対し、環境学各分野の一線の共同研究者たちの協力を得て国内初の「福島を伝える」学際的な教材開発を行う。事故の影響は多岐にわたり、事故から数年たった現在では、報道量も減り総体がつかみにくいが、一方でチェルノブイリに次ぐ規模の惨事となった事故の影響は長期にわたって続く。事故の影響にどのように対応すればよいのか、今後のエネルギーをどのように考えればよいのか、対象として大学生初学者を念頭におき、3.11後を切り拓くための教材開発を実施する。開発した教材は各大学の授業で使用し評価を行うという大学間ネットワークのPDSサイクルによるFDを実施する。 以上の3年間の計画のうち、1年目の2016年度は、主に教材開発の下準備を実施してきた。教材開発やそれをもとにした講義・評価の実施に向けて合計6回の研究会やフィールドワークなどを行い研究分担者らとともに共同で知見を深めた。たとえば、地質学の専門家を招いて新規制基準における活断層評価の動向や、諸外国の原発立地における活断層の取り扱いに関してレクチャーを受けたりした。福島と比較するためにチェルノブイリ事故について理解を深めることは必須である。このため、ロシア研究者を招いてベラルーシの社会・経済について研究会を開いたりもした。専門領域が多分野にわたる分担者や執筆予定者とともに、1年間を通して教材開発に向けて共通理解を進める作業を行ってきた。 福島での現地調査や各地での避難者の調査、あるいは評価に関する研究を深化させるなどの役割に沿った各自の調査研究もそれぞれ実施し、精力的に研究成果を出している。当初計画通り2017年度の教材開発や実践研究の下準備が十分に整ってきたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本共同研究は、順調に進行していると判断する。2016年度は、研究計画の1年目にあたる。福島第一原発事故を総合的に理解するという学際的な教材開発を充実させるために、専門家を何度かお呼びしてレクチャーを受けたり、フィールドワークを実施して現地見学をするなどの研究会を開催し、実施に向けた準備を継続してきた。同時に、開発予定の教材をもとにした、「高等教育機関における教育実践研究と評価」のための準備的な研究も実施した。高等教育機関における評価問題の専門家にレクチャーを受け、授業研究の実施方法について分担者とともに検討した。研究会の開催は合計6度であり、2017年度以降の計画の準備段階として順調であった。 本共同研究で作成予定の学際的な教材は、日本の公害・環境問題に関して初めての一事例に特化したものとなる。例えば、水俣病や四日市公害に関する著書は何冊も出版されているが、総合的に1冊でそれぞれの問題の骨格が理解できる本は世に全くない。問題の骨格を理解しようとすると、何冊も専門書を読み、現地での調査も実施したりしてようやく正確な理解に至る。このため、四大公害であってもごく少数の専門家しか正確に理解できていないのだ。急激な高度経済成長の裏側で、死者まで出した経験を繰り返さないためにも、大勢の国民の基礎教養として四大公害の歴史や現状を正確に理解すべきと考えてきた。今回取り扱う問題は、チェルノブイリに次ぐ原発事故である。なぜ過酷事故が起こったのか、地震大国であるにもかかわらず、いったん事故が起こった際のリスクが最も高い原発をなぜ50数基も保有したのか、事故による社会的影響はどのようなものか、今後のエネルギーをどのように考えればよいのかなど、1冊で問題の骨格を分かりやすく総合的に理解できる教材作成を進める。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度の順調な共同研究の進行を受けて、2017年度は教材完成に向けた取り組みを始める。今年度中の完成を目標としている。昨年度より出版社との交渉も実施し、順調に進めば、2017年度末あるいは2018年度前半には刊行予定である。教材完成にむけた研究会を5月より、なるべく毎月1度のペースで実施したいと考える。執筆予定者にそれぞれ報告してもらい、大学生の初学者においても総合的な理解が可能な内容レベルとするよう調整したい。教材を開発しつつ、各自の講義等で使用し、練り直しながら完成させる。親学問の違う研究者たちによる学際的な教科書作成自体、挑戦的な試みである。環境問題に関する著書において、1冊の中で理系、文系と多分野にまたがり、バランスよく問題の骨格を理解可能な内容にするという、ひとつの環境問題に焦点化した総合的な教材としては初めてのものである。「ひとつの環境問題」といっても、世界的に衝撃を与えた事件である。外国語訳の構想もあり、国内外での環境研究の土台となればとも考えている。 また、今年度後半より、開発中の教材を使用した講義をそれぞれ行い、大学の組織を超えた実践研究を行う予定である。各担当者は、講義の目標やシラバスなどの資料を持ち寄り、可能であれば、お互いの講義や演習を参観するという計画をもっている。受講生の講義内容に関する認識や態度の変容に関して検討したい。環境問題の実態を知り、考え、解決のために行動する人材を育成するという環境教育の各段階の目標と照らし合わせて、講義を通しての環境教育の可能性と課題に関して検討する。この実践研究に関しては、今年度は試行段階とし、最終年の2018年度も実施する。
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