研究課題/領域番号 |
16H03809
|
研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
濱田 豊彦 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (80313279)
|
研究分担者 |
長南 浩人 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 教授 (70364130)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ASD / 聴覚障害 / 合併事例 / 視線 / コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究はASDを合併する聴覚障害児とASDおよび聴覚障害の単一障害事例の談話における困難を比較し、発達障害に聴覚の障害が及ぼす影響を分析することと合併児に対する縦断指導を通して適切な指導法を開発することを目的としている。 2018年度は収集した4群(定型発達児、聴覚障害児、ASD児、聴覚障害とASDの合併児)のデータをもとに談話の特徴の類型化と説明を求められている状況のどこを見ていたか(視線)の関係を検討しASDに聴覚障害が加わることで生じる困難の類型を図ることを目指した。その結果、談話で語られた言葉の量的比較では聴覚障害の有無が影響しており、談話内容の質的評価においては過集中や衝動性などの注意の課題の有無が大きく影響することが明らかとなった。対象児の類型化の基準を得ることができた。また、聴覚障害児版に改定した日本語版CCC2(子どものコミュニケーション・チェックリスト第2版)を用いて聴覚障害特別支援学校に在籍する児童の抱えている様々なコミュニケーション上の課題を、ASDや語用論的言語障害傾向に起因する言語面の問題と聴覚障害ゆえの言語獲得の課題に鑑別することを検討した。 知的に遅れのない聴覚障害とASDの合併児に対する縦断指導も継続しており初期には重いASDの症状を示していた合併事例の中には、言語力(コミュニケーション力)の改善とともにASDによる困難が軽減する者がいることが明らかになってきた。今年度の取り組みとしては背景の中の字幕を正確に読み取る課題を中心に縦断指導を実施し、先行情報を与えることで視線や字幕の理解が促進されることが明らかとなった。 これらの知見を踏まえ来年度に向けて教員向け研修教材及びプログラムの作成に入る予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全国実態調査は既に終わり、報告書を作成して今年度関係機関に郵送配布することができた。 研究の中心課題であるASDに聴覚障害が及ぼす影響についても4群(定型発達児群、ASDと聴覚障害を合併している群、ASDの単一障害群および聴覚障害の単一障害群)に対し、状況絵を用いた談話課題と追視課題のデータ収取は終えることができ、今年度は昨年度十分にできなかった、談話の質的分析に加え量的な特徴を検討した。事象の関連を示す接続詞数・接続助詞数の出現頻度がASD児は低くなるといわれているが、一文あたりの接続詞数・有意味語数あたりの接続助詞数では、聴覚障害を有しない群と聴覚障害を有する群の間に有意差がみられた。特に合併群では、接続詞・接続助詞を使用する頻度が(文全体でも一文あたりでも)非常に少なく、このことが彼らの説明のわかりにくさに繋がっていると考えられた。併せて、日本語版CCC2(子どものコミュニケーション・チェックリスト第2版)を聴覚障害児にも用いられるように質問表現を修正し、日常のコミュニケーション状況から合併児の鑑別を試みた。合併群と聴覚障害単一児群の比較では、SIDC(社会的コミュニケーションの逸脱)に関しては2群間で有意差が認められず、単一の聴覚障害児においても、比喩・ユーモア・皮肉などに込められた意味がわからず、文字通りの解釈をしてしまったりする傾向があることが示唆され、GCC(コミュニケーション全般の能力)に関しては合併群の方が有意に低くなることがしめされた。上記の言語分析での知見や、追視課題の中で過集中の傾向が見られる対象児は状況絵の談話の成績が低かったことなどから、過集中や衝動性などの注意の課題の有無と各対象の言語力が合併事例の類型を行う上で大切な項目であることが明らかとなってきた。 縦断指導も予定通り20回実施し、2019年度も継続する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
支援方法の開発(縦断的介入研究)として、標準知能(IQ85以上)でありながら、ASDの診断を有する聴覚障害児を対象に、個別教材を作成し、年間20回程度の指導を継続的に行ってきた。2018年度は聴覚障害とASDの合併児に対して、背景と字幕のある画面を見せて字幕の内容を正確に理解する課題を縦断的に指導した。当初は、字幕内容とは異なる背景内の事物に視線が集中してしまい正確な理解ができなかった事例も、内容に関する先行情報を与えると背景に引きずられることが少なく縦断指導の中で改善が見られた。 2019年度はまとめの年度になるのでこれまで得られた知見を国内外の学会で報告するとともに、教員や保護者などに向けた研修教材及びプログラムの作成に入る予定である。
|