本研究では、ASDを合併する聴覚障害児の談話の特徴と状況を把握するうえでの視線の関係を検討して、合併児の指導方法を開発することを目的とした。最終年度の今年度は、定型発達児、聴覚障害児、ASD児、ASDを合併する聴覚障害児(以下、合併児とする)の4群で談話の特徴を比較した。状況絵に関する説明を分析した結果「分かりやすさ」において合併児が(個人差が大きく統計上の優位さは得られなかったものの)最も点数が低く、文としての首尾一貫性を示す整合性や言語的つながりを表す結束性に関してASD児よりも有意に低い値となった。一方、余分内容を付加するなどはASD児よりも低い傾向があった。そして、信条に関する叙述が最も少ないという結果になった。量的分析においても接続詞等が少なく、一文当たりの語数が少ないことが示された。課題中の大人の介入数はASD児に次いで合併児が最も多く定型発達児の3倍以上になった。 談話においては、群間の違いは明確に示されたが視線分析においては、群間での差を明確に示すことができなかった。例えば、室内の物品に対して同様に視線を向けていても、その部屋を台所としてとらえているかどうかは視線だけでは判断できないことが、談話との乖離につながったと考えられた。 そこで、逸脱の極端な事例に対して分析を行ったところ、状況の主題とは関係ない事物を長く見ている合併児の場合は、状況に関係のない(空想の話等)をする傾向があり、手段を含め全体を等分に見る傾向の合併児はストーリを語ることができず絵の説明になる傾向があった。 これらを踏まえ合併児に縦断指導を行った。状況絵の周辺を確認してから主題を見せる方法や、絵の示す状況について言語的にヒントを与えることで談話に改善が見られた。本内容については、関連学会で報告するとともに山形と都内で教員向け研修会を開催した。
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