研究課題/領域番号 |
16H03814
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾張 真則 東京大学, 環境安全研究センター, 教授 (70160950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アトムプローブ顕微鏡 / 活性サイト / 原子分解能 |
研究実績の概要 |
本研究では三次元アトムプローブ顕微鏡(3DAP)装置を改良し、固体触媒を反応条件下で測定することにより固体触媒の活性サイトを原子レベルで構造解析が可能な新たな分析装置である活性サイト原子分解能イメージング顕微鏡(ASARM)を開発し、これを用いて触媒活性サイトの構造分析方法を確立することが目標である。ASARMは触媒機能を持つ試料表面に反応ガスを噴射し触媒反応が起きた場所を電界イオン顕微鏡(FIM)で観察することにより触媒反応サイトを特定し、その後反応ガスの導入を止め3DAP測定を行うことで反応サイトの構造を観察する二段階で測定を行う。 触媒反応が起きるためには試料付近での反応ガスの濃度と触媒反応が起きる温度が必要である。 反応ガスが計測に悪影響を与える可能性があるため試料付近のみ反応ガスの濃度を高くする必要がある。そこで、実験およびシミュレーションを用いてガスを流した際のガスノズルと試料までの距離、ガス流量などによる試料付近及びチャンバ全体の圧力変化を確認した。その結果を基にガス導入機構の設計及び製作を行った。さらに反応ガスによるノイズを最小限にするため排気システムも改良を行った。 触媒反応で重要な点である温度についても研究を行った。FIM及び3DAPでは原子レベルの空間分解能を持つために試料を低温にする必要があるが触媒反応では室温及びそれ以上の温度を必要とする場合が一般的である。今回目標とする触媒活性サイトの観察のためには原子レベルでの空間分解能が必須条件であり、試料を加熱するのは望ましくない。そこで3DAPで用いられるパルスレーザーにより試料温度が瞬間的に上がることから、パルスレーザーによる試料温度の変化についてシミュレーションを行った。パルス幅、パルス間隔、パワー等を最適化することにより様々な触媒反応に必要な温度にまで瞬間的に上げられることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ガス導入機構設計及び装置改良 測定への影響を最小限にするため試料付近のみ触媒反応条件になるようガス導入機構を設計した。ガス導入機構を設計する前に簡易装置を用いてガスノズルの直径、ガスノズルと試料までの距離、流量などによるチャンバ全体の圧力および試料付近の圧力変化について実験とシミュレーションを行った。これの結果からガス流量を低くしでても試料からガスノズルまでの距離を短くした場合がチャンバ全体の真空度の悪化を抑えたまま試料付近の反応ガスの濃度を上げられることが確認できた。しかし、ガスノズルを試料に近づけられる距離は限度がある。測定中試料または触媒反応により生成された生成物が試料付近でイオン化され電場に沿って飛行するため試料付近にグラウンドの物体がある場合電場の形が歪みイオンの飛行軌道に影響を与える。そこでSIMIONを用いてガスノズルが放出されたイオンの飛行軌道に影響を与えない距離を求めた。これらの結果を基に試料とガスノズルの距離は5 mmという最適値が得られた。この結果を基にガス導入機構の設計及び製作を行い装置の改良を行った。さらに残留した反応ガスによるノイズの増加を防げるため排気系も改良を行った。チャンバで最も高真空度が必要とされる検出器付近にタンデムのTMPを設置し検出器側は高真空を維持できるようにした。 (2)シミュレーションによる試料付近の温度 触媒反応に必要な試料温度を得るためのパルスレーザーによる試料温度上昇についてシミュレーションを行った。シミュレーションの結果から試料の温度はおよそ400Kまで上昇することが確認できレーザー照射が止まると短時間で元の温度まで冷却されることを確認できた。この結果からパルスレーザーのパルスエネルギー、パルス間隔、パルス幅を調整することにより原子レベルの空間分解能を持ちながら触媒反応が観察できることを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は触媒活性サイトを観察できるASARM装置は完成したこととなる。 今後の推進としては完成したASARMを用いて実際の触媒について活性サイトを観察し新規分析法を確立することである。最初に触媒機能を持つPtを測定することによりASARMの評価を行う。Ptは原子単位で構成された物質であるが局所的な平坦さ・面配向の違い等が反応性に影響を与えると報告されている。そこで、実際ASARMを用いて触媒反応による生成物質が検出されるか確認を行った後に生成物質と試料の構造と触媒反応性との関連性について考察を行う。さらに生成物質がPtとの触媒反応により生成されたかを確認するため同条件化で触媒機能を持っていないWを試料として測定し比較を行う。この両方の実験の結果を比較することによりASRAMが触媒活性サイトの構造分析手法として有効であることを評価する。 触媒機能を持つ単体金属の後に実際使用されている触媒について分析を行う。分析対象としてはPt-3d遷移金属合金触媒を予定している。3d遷移金属(Cu、Ni、Co、Fe等)は比較的安価であり、ナノレベルでPtと合金化することによりPt単体よりも高い触媒活性を示すため、近年非常に注目を集めている。3d遷移金属との合金化により触媒活性が高まる理由を理解するため活性サイトの構造解析を行う。まず、ASARMによりPt単体触媒の活性サイトの構造解析を行う。その際にPt表面の局所的な平坦さ・面配向の違い等の反応性への影響を明らかにする。その後、高触媒活性を持つPt-3d遷移金属合金触媒を測定し活性サイトの構造解析を行う。さらにPtと混合する3d遷移金属の種類や組成比を変化させた触媒の反応性及び活性サイトの構造を解析し、活性サイトの構造と触媒反応との関連性を導き出す。
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