研究課題/領域番号 |
16H03816
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
熊野 英和 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70292042)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子ドット / 量子情報 / 光子数状態 / 長期安定性 / 量子光源アレイ |
研究実績の概要 |
本研究開発課題は、半導体量子系を光源とする2光子状態の制御に必要な基礎物理を理解し、光源の高度化に向けた指針を明らかにすることで、優れた特性を持つ量子ドット光源の応用へ向けた展望を大きく拡げ、量子情報通信分野および進展著しい量子計算分野へ多大な波及効果をもたらすことを目的としている。既存の光ファイバー網により伝送可能な量子固体光源の開発を目指しており、これまでの研究により、半導体量子ドット中の物性と生成光子の特性との関連性を明らかにし、また昨年度は実用上妨げとなるドットの遷移エネルギーや強度の時間的揺らぎを抑制する手法を見いだした。また、成長膜をピラー状に加工し単一モードファイバー端面に直接接続することで、温度変化や振動など外乱に対し強固で長期間安定な単一光子発生源を実現している。平成29年度は、これらの成果を発展させるべく、光子相関測定法による単一光子状態であることを示すアンチバンチング特性及び励起子分子-励起子分子のカスケード過程を確認し、また単一光子発生強度と励起光強度の関係に関して、より広範な励起光強度範囲に渡る詳細な物理モデルの検討を実施し、実験結果をよく再現できた。更により高次機能の発現が可能な光源の実現に向け、ピラーアレイ構造にHydrogen silsesquioxane (HSQ)をスピンコートすることで保護膜を形成し、更にピラーアレイ領域を横長に拡大して、同時に複数個のファイバーを接続すること、すなわち単一光子発生源の多元化に向けた研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の実施計画項目は、ドット内で起こる時系列遷移の中間状態である励起子状態の時間発展を記述する物理モデルの構築、および量子ドット由来の2光子状態の応用展開に向けた高性能化の方針を得る、であった。 近い将来の固体量子光源のネットワーク実装を意識し、InAs量子ドット励起準位の共鳴励起といった、外乱で急峻な特性変化を示す条件を避け、安定動作可能なGaAs 障壁層を励起する非共鳴励起を用いて光源特性評価を行った。単一光子放出の程度を示すg値(理想的な単一光子光源の場合0、古典的な光で1を取り、0に極力近いことが期待される)は、弱励起から飽和領域まで、0.0174と極めて低い値が得られた。これにより、当該研究で用いたピラーアレイ型光源において、光子純度を劣化させる背景光が強く抑制されることが明らかとなった。また、これらの特性は冷却サイクルや振動といった外乱に対して耐性があり、4日間に渡る連続動作試験においても、発光エネルギー、強度共に優れた安定性を示した。 更に単一光子強度と励起光強度の関係を調べた結果、ドット内各エネルギー準位における始状態、終状態及び中間状態の分布の時間変動を記述するレート方程式によるドット内部物理モデルの予測と広範な励起光強度範囲で良い一致が見られた。2光子状態の応用展開に向けた高性能化については、今年度は単一光子の並列発生を実現するための、12 芯半導体量子ドット-単一モード光ファイバーの直接接合アレイ構造の設計・作製を行っており、次年度以降、これを用いた光源の高機能化を図って行く。
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今後の研究の推進方策 |
IoT時代の幕は既に上がっており、多種多様なセンサーやアクチュエーターを通じて実空間とデータ空間が接続されつつある。サイバー攻撃等のリスクへの対策としてはもちろんであるが、量子性を有した計算機の登場等ハードウェアの大革新が起こりつつあり、安心・安全を十分に担保できるセキュア通信網の確立は、社会の持続的発展のためには急務である。量子情報通信技術がこの観点から注目を浴びており、絶対的安全性が安定して得られるシステム開発が不可欠となっている。本研究で進める確定的光子放出が可能な量子ドット光源の研究開発は、擬似的な単一光子光源のような確率過程を本質的に含まないために、応用上重要な役割を果たすと期待されている。今後は、拡大を続けるIoTツールの安全性向上も検討項目として加えるなど視野を広げながら、平成30年度の実施計画である、光源の高次機能化および相関光子対源の通信波長帯への展開に向けて、ファイバーとの親和性が最大限利用できる通信波長帯への展開を進める。また、今年度実施した単一光子発生源の多元化に関する成果を更に発展させ、独立量子ドット光源からの光子干渉を含む、高次機能化に関する研究を進める予定である。光子がもつ他の系にはない優れた特色を最大限に引き出し、通信の究極の秘匿性を実現する量子暗号や、急速な進展を見せる量子計算をはじめとする量子光デバイスの実現に向けた研究開発を、今後とも鋭意展開して行きたい。
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