研究課題/領域番号 |
16H03817
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
笹倉 弘理 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90374595)
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研究分担者 |
近藤 憲治 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (50360946)
熊野 英和 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (70292042)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光子数状態発生源 / 励起子複合体 / 半導体量子ドット |
研究実績の概要 |
本申請研究の目的として掲げた光子を中継媒体とした遠隔スピンネットワークの創成に向け、単一モード光ファイバーとスピン源としての半導体量子ドット(QD)間の結合デバイス(Quantum Dot in Fiber: QDinF)の開発に着手した。研究計画(平成28年度)の項目1,2に関連して、偶発的多光子発生過程の抑制を狙いエピタキシャル成長させた自己集合型QD試料に対して微細プロセス加工を施し、ナノピラーアレイ化した後、高NA光ファイバーと接続し新たなQDinFデバイスを作製した。本デバイスは純度が高い単一光子状態を数日間に渡って連続発生可能であることを光子統計性の評価により実証した。更に単一モード光ファイバーに結合するQDの平均数が1個となることを相互相関信号により確認した。しかしながらこの過程においてQDから発生した光子の偏光が単一モード光ファイバー通過中に、屈折率の不均一性により乱されやすく、QD中に形成される励起子複合体の同定のため従来用いられている偏光マッピングの適用が困難であることが課題として見えてきた。これは平成29年度以降に計画している光子と単一QD中の局在スピン間のプログラマブルな制御機構の開発において障害となるため、相互相関信号による励起子複合体の同定手法の確立に着手した。±1の荷電状態までを考慮し, 84状態(4準位, 4電子, 4正孔)まで拡張した励起子複合体間遷移のレート方程式を用いて、相互相関信号をシミュレートした。光子が排他的に発生する単一QDに形成される励起子複合体間の相互相関信号はディップ構造やカスケード過程であることを示すディップ構造とバンチング構造の組み合わせだけでなく、測定系の時間分解能、上準位からの高速な緩和過程等によって、非対称なバンチング形状のみが観測されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の平成28年度実施予定の研究計画は1.分布ブラッグ反射共振器構造による半導体量子ドット発光に対する指向性の付加による単一モード光ファイバー接続の高効率化、2.光ファイバーコア端面形状の最適化、3.単一モード光ファイバー接続型(Quantum dot in Fiber:QDinF)を用いた電子スピンと光子の結合効率の制御機構の開発であった。 項目1に関連し偶発的複数光子同時発生を抑制するためナノピラーアレイ化を施した後、単一モード光ファイバーコアへの転写を試みたが、構造的な不安定性により歩留まりが低下した。このためナノピラーアレイ加工後にHSQレジストをスピンコートを施し、ナノピラーの周囲を固め、機械的な安定性を高めた。これにより上記の課題に対処した。 項目2に関して高NA単一モード光ファイバーを用いてQDinFの開発に着手し、従来型のQDinFに対して高い純度の単一光子状態の発生を確認し、長時間連続運転が可能であること検証した。 項目3に関しては項目1と同様に構造的な不安定性によって、歪が伝わりにくくなり、QDの内部エネルギーのチューニング幅が低下するだけでなく、光ファイバーコアとナノピラーの位置ずれに起因する光学的結合率の変動が見られた。この点に関して光ファイバーへ接続するQD製膜試料の形状自体の最適化を実施中である。 以上のように実施予定の項目全てに着手し、まだ実施中の項目はあるものの、概ね良好な結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画 : 半導体量子ドット(QD)製膜試料のナノピラーアレイ化に伴う単一モード光ファイバーとの結合効率の不安定性の課題に対して、HSQレジストによる機械的な補強、形状の最適化を継続して推進する。平成28年度で得られた純度の高い光子数状態の生成及び励起子複合体の選択手法に関する知見を活かし、歪印加による QD 間の内部エネルギー制御機能を単一モード光ファイバー接続型QD(QD in Fiber : QDinF)デバイスに付加し、光子とスピン間の結合効率とスピン間のエネルギー整合度の調節し、光子を介した遠隔QDの局在スピン間の相互作用を制御可能とする。次に電子をドープした電子スピン QDinF ユニットを, 単一光子発生 QDinF ユニットを介してネットワーク化し、スピングラスの基底状態探索を行う物理シミュレーターの構築へ展開する。 研究実施体制 : 平成29年度も28年度と同様に2名の研究分担者と共に本申請研究を実施する。研究代表者である笹倉が研究進捗の取りまとめと, 半導体量子ドット(QD) を含む 分子線エピタキシャル成長・単一モード光ファイバー接続型QD(QD in Fiber : QDinF) 作製を担当する. QD の光子統計性, 基礎光学特性評価については笹倉と熊野が設備を相補的に活用しながら担当する. 光子を介した遠隔スピン間の相互作用形成及び実アニールの有効性に関しては, スピン物性理論の専門知識と経験を持つ近藤が理論検証を, 実験からのアプローチを笹倉が取り円滑に進める. これまでは全員が同大学に属していたが、分担者のうち1名(熊野)が他機関へ転出したため、申請時記載した研究項目3,5のうち5を代表者が担当することにする。
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