研究課題/領域番号 |
16H03819
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
安藤 妙子 立命館大学, 理工学部, 准教授 (70335074)
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研究分担者 |
鳥山 寿之 立命館大学, 理工学部, 教授 (30227681)
中島 正博 名古屋大学, 工学研究科, 招へい教員 (80377837)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 単結晶シリコン / 引張試験 / TEM / ピエゾ抵抗効果 / 結晶方位依存性 |
研究実績の概要 |
本研究では,代表寸法が10 nm から 1 um の単結晶シリコンナノ構造体を対象としてナノ構造の変形・破壊挙動を評価できる実験方法を開発し,開発した手法を用いてナノ構造の変形・破壊挙動を明らかにするとともに,ナノ構造の変形が単結晶シリコンの電気物性に及ぼす影響も調べることにより,MEMS部品としての強度や実用性を阻害するメカニズムを解明することを目的としている. 本年度はまず使用する透過型電子顕微鏡(TEM)が日立ハイテク製(H800)から日本電子製(JEM-2100)へ変更することになったため,改めてTEM観察用の1軸駆動試験装置を製作した.試験装置製作時と同時に,厚さ80~150 nm のシリコン薄膜に対して集束イオンビーム(FIB)を用いて切欠きを導入した試験片を用いて大気環境下での試験を実施し,膜厚や試験温度が破壊挙動に及ぼす影響を調べた.その結果,常温では膜厚による変化を観測することはできなかったが,450℃に加熱した際に,厚さ90nmの薄膜はそれより厚い薄膜より,先端半径の小さい切欠きに対する破壊の耐性が増加する様子を観察することができた. またTEM内で荷重を測定する機構として,シリコンデバイス上にひずみゲージを設けることとし,さらに,ドライエッチングにより設計形状と異なる最終形状になってしまう点についても設計形状を修正することで対応することができた. 一方でシリコンのピエゾ抵抗効果は,本研究において(1) 荷重を測定する要素,(2) ナノ構造の変形による影響を調査する対象として重要である.そこで単結晶シリコンのピエゾ抵抗とその方位依存性について明確に解析できるようにするために,テンソル表記したピエゾ抵抗効果の式について結晶方位に依存しない項と結晶方位に依存する項に分解できることを示し,また結晶軸から特定の角度のピエゾ抵抗について数式で明確に表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の当初の研究計画では (1) ナノ構造の引張試験の実施,(2) ナノ構造の電気物性評価を行うこととしていた.ただし平成28年度末に生じた,実験に用いる共用施設のTEM装置の変更を受けて,TEM内試験用の1軸駆動ホルダや試験デバイスの再製作が必要となった. 試験用TEMホルダの製作では,もともと駆動変位が10um と不十分であったため,再製作にあたって駆動量を倍程度に増加させる改良を加えながら製作を進めた.製作したホルダはSEM内でのその場観察などを用いて駆動量の確認を行った.また試験デバイスに関しては,新しいホルダに適用するように寸法を変更するだけでなく,前年度に問題となった設計値と製作後の寸法誤差を小さくするために,リンク機構に相当する構造の形状変更を行った.さらに本申請課題の当初の目的である荷重測定のために,ピエゾ抵抗素子を有する構造としたため,改めてFEMを用いる最適設計を実施してデバイスの開発・製作を行った. また当初計画予定の (1) ナノ構造の引張試験の実施に関しては,一旦大気圧環境下での試験を行うこととした.シリコン薄膜にFIBを用いて先端半径の異なる2種類の切欠きを導入した試験片を作製し,引張試験を行ったときの破壊の様子について観察を行った.膜厚を変化させると同時に,大気圧環境下では加熱も可能であるため,450℃までの温度環境下で試験を実施し,90nm以下の試験片で先端半径の大きな切欠きから破壊が生じるという,通常とは異なる破壊の様子を観測することができた. さらに (2) ナノ構造の電気物性評価では,単結晶シリコンのピエゾ抵抗の寸法依存性について評価するための試験片製作を行った.また,ピエゾ抵抗のテンソル表記において,結晶軸から傾いた素子の抵抗評価についての一般式を導出し,計測後の結果の取扱に関する準備までを終えている.
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今後の研究の推進方策 |
再度製作した引張試験用TEMホルダおよびMEMSデバイスを用いて,超高倍率観察下での変形中の定点観察を行うこと,変形中の荷重・ひずみ・電気抵抗をTEM内で実験中に計測することにより,単結晶シリコンナノ構造の引張試験中の変形挙動,破壊に至るまでの挙動およびピエゾ抵抗効果について,寸法依存性を明らかにする. (1) 平成29年度に開発・改良・製作したデバイスを用いて,TEM内引張試験を実施する.新しいデバイスには荷重測定用のピエゾ抵抗素子が組み込まれているため,荷重測定の校正について確立し,ナノスケール薄膜の引張荷重測定を行って,強度の測定を可能にする.また薄膜試験片に切欠きを導入することにより破壊じん性測定も実施していく.引張荷重下における単結晶シリコン薄膜の局所定点観測を実施していくことにより,局所応力場に生じる現象を明らかにしていく.とくにナノスケールにおける変形メカニズムを確立するとともに,それらと破壊の関係性を実験的に明らかにする. (2) 平成29年度に実施した大気圧環境下での試験結果により450℃程度の中高温域で破壊状況の寸法依存性が観測された.本試験結果について,試験片破壊領域の超高倍率観測や構造解析等を行って,破壊時に生じた局所領域の現象を明らかにする.また,古典的な破壊力学と単結晶シリコンのテンソルによる方位表記を組み合わせた一般式の構築とともにナノスケールに適用が可能であるかを本研究結果との比較で確認していく. (3) 引張試験時に試験片の抵抗測定も合わせて行う実験を行う.とくに破壊挙動における脆性-延性遷移時に生じる現象を重点的に計測し,ピエゾ抵抗評価による脆性-延性遷移現象を特定することやピエゾ抵抗効果の寸法依存性などが明確になるかどうか取り組んでいく.
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