研究課題/領域番号 |
16H03824
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 貴哉 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任教授 (10447328)
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研究分担者 |
中崎 城太郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任准教授 (10444100)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 赤外光電変換 / コロイド量子ドット / ZnOナノワイヤ |
研究実績の概要 |
PbS量子ドット(QD)とZnOナノワイヤ(NW)の混合層を用いた太陽電池構造(NW型)に着目し,赤外光電変換の高効率化を行ってきたが,H29年度は,主として,以下の3つの研究項目を実施した. 「量子ドット層のエネルギー準位研究」:QDの欠陥準位の低減(パシベーション)は,重要課題の一つである.そこで,パシベーションに幅広く用いられているハロゲンリガンド(Cl-,Br-,I-)と,1100nm付近に励起子吸収ピークを有するPbSQDで固体膜やセルを作製し,リガンドの種類が光電変換特性に与える影響を,赤外光電流や,過渡吸収などの分光計測や,計算科学により検討した.その結果,Cl-リガンドでは,先行研究で明らかとなっているパシベーション効率が低いこと以外に,キャリア輸送に不利なエネルギー準位が形成することも明らかになった. 「エネルギー準位の量子ドット径依存性」:励起子吸収ピークが近赤外から短波長赤外に渡る複数のQDを合成し,ZnOナノワイヤとのヘテロ接合を構築し,光電変換特性を評価し,励起子吸収ピークが1800nm付近まで拡張すると,ヘテロ界面構造が電子移動に対してエネルギー障壁を形成することを明らかにした.障壁を低減するために,ZnOナノワイヤのドーピングなどが必要であることを明らかにした. 「ヘテロ界面の電位変化の直接観測」:ヘテロ界面でのエネルギー障壁の有無やその高さなどを直接的に評価する方法として,ケルビンフォース顕微鏡による,セルの断面観察を試みた.試料作製条件や測定条件を工夫することで,断面方向での電位変化を確認することができた.また,光照射により,表面電位が正にシフトすることが明らかになった.本検討では,詳細なエネルギー準位の変化に関する議論には至らなかったが,セル作製手法や計測技術を改良することで,ヘテロ界面のエネルギー構造の理解を深めることが可能と考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H29年度は,「量子ドット層のエネルギー準位研究」と「エネルギー準位の量子ドット径依存性」を主として実施する予定であったが,平成29年度12月に量子ドット層のエネルギー準位の研究を行った結果,当初の予想に反して,長波長吸収量子ドット(量子ドット径の大きな量子ドット)では,ワイドギャップ半導体や金属電極との界面に形成するバンド構造が,キャリア輸送特性に強く影響することが推察される実験結果が得られた.そのため,研究遂行上,PbS量子ドット/ZnOナノワイヤ太陽電池の接合界面のバンド構造を評価することが重要な検討課題となった.そこで,ヘテロ接合界面の電位変化を直接観測するための実験を追加し,当初より計画をしていた「エネルギー準位の量子ドット径依存性」の詳細な検討の優先順位を下げて,一部を次年度に実施することとした.コロイドPbS量子ドットを用いた太陽電池において,類似の積層方向の表面電位観測例はなく,計測試料の作製や評価条件などの検討に時間を要し,実験計画上は遅延しているが,近赤外光電変換効率の向上へに向けた基盤構築を確実に進展させることができた.
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今後の研究の推進方策 |
赤外領域での光電変換に有利な,PbS量子ドット(QD)とZnOナノワイヤ(NW)の混合層上に,同種のPbS QD層(上部QD層)を介してAu電極を形成した太陽電池構造(NW構造)に着目し,太陽電池特性を検討してきた. H30年度は,NW型太陽電池の量子ドット・ZnOナノワイヤハイブリッド構造制御の根幹に関わるPbSQDとZnO,混合層と上部QD層の接合界面などのエネルギー状態について,詳細に検討を行う.具体的な研究項目としては,「ヘテロ接合界面の表面電位変化の直接観測」と「量子ドットのエネルギー準位依存性」の2点にについて,検討を行う. 「ヘテロ接合界面の表面電位変化の直接観測」は,H29年度に新しく追加実験としたものである.ケルビンフォース顕微鏡を用いて,ナノスケールの空間分解能でセルのテロ接合界面の電位変化を観測するためには,試料作製技術や測定条件を詳細に検討する必要があるため,H30年度は,計測上の課題を解決しつつ,NW型太陽電池の赤外高効率光電変換の実現に向けた,基盤構築を目指す.
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