研究課題/領域番号 |
16H03827
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊都 将司 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10372632)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 時空間分解発光計測 / メゾスコピック系 |
研究実績の概要 |
H28年度は、ポンプ-ダンプスキームに基づく時間分解顕微蛍光検出システムを構築した。光源として、フェムト用Tiサファイアレーザー(波長700-980 nm, パルス幅70 fs, 繰り返し80 MHz)を用いた。システム構築時、レーザーの波長は主として800 nm に設定した。フェムト秒パルスを2つに分割し、片方を非線形光学結晶に集光し第二高調波(400 nm)を発生させ、それを試料分子の励起に用いた。もう一方の光パルスは基本波のまま誘導放出光とした。誘導放出用の近赤外光パルスをグレーティングペアに導入し、パルス幅を伸長可能な光学系とした。誘導放出による励起状態の失活を任意のタイミングで誘起できるようにするために、電動ステージおよびレトロリフレクターを用いて第二高調波に光学遅延を与え、誘導放出用光パルスと励起用の400-nm パルスの試料への相対的な到達時間を制御可能な光照射系とした。上記の光学遅延を与えた二つの光パルスに対して、それぞれ独立な外部光学系を構築し、倒立型顕微鏡に導入する直前で同軸上に重ねて顕微鏡に導入し、100倍の対物レンズで試料中の同一点に集光した。 対物レンズ下で基本波と第二高調波をガラス板に集光し、後方散乱のごく一部をアバランシェフォトダイオードで検出し、2つのパルスの試料への到達時間差を評価した。このとき、パルスの到達時間が揺らぐ現象がみられたが、レーザーの安定化、エレクトロニクス関連の配線の再設計、TCSPCモジュールの調整などを注意深く行う事で、設計どおりの時間間隔で400 nmおよび800 nmの光パルスを顕微鏡下に導入可能な光学系を構築することができた。さらにこの装置を用いて、バルクの溶液試料に対して、蛍光励起と誘導放出による励起状態失活が誘起可能であるかを確認する予備実験を行い、励起状態が800 nmのパルスでダンプされることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上で述べたとおり、研究初年度(平成28年度)は、顕微鏡下で分子系試料を光励起し、かつ任意の遅延時間後に励起状態を誘導放出により基底状態へ瞬時に失活させることが可能な、レーザー顕微鏡システムの構築に取り組んだ。 サンプルの光励起および誘導放出誘起に用いる2つの異なる波長のレーザーパルス対に対して、それらの試料への到達時間間隔制御に於いて、当初は幾つかの問題を抱え、その解決に数ヶ月の期間を要し、当初計画から研究経費および期間を4ヶ月繰り越しした。何度か光学系を見直し、実験システムを詳細にチェックして再構築すると共に、エレクトロニクスの最適化によって、高精度で再現性良く光励起、誘導放出による励起状態失活が可能なシステムを構築することができた。また、本年度構築した時間分解顕微蛍光検出システムを用い、参照試料に対して顕微鏡下で蛍光励起と励起状態失活を実現することに成功し、今後の研究に向けて装置が計画どおり物理現象を誘起可能であることが示された。上記を総合的に判断して、進捗状況を(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度前半は、H28年度に構築した、光ポンプ-光ダンプスキームに基づく時間分解顕微蛍光検出システムの性能、主に時間分解能に関する詳細な評価を引き続き実施する。蛍光励起にはこれまで同様、フェムト秒Tiサファイアレーザー(波長800 nm, パルス幅70 fs, 繰り返し80 MHz)の第二高調波を用い、励起状態のダンプには基本波を使用する。 誘導放出による励起状態ダンプのための近赤外フェムト秒パルスは、このまま使用すると同時二光子吸収が容易に誘起されることが予想される。そこでまずは同時二光子吸収を抑制し、効率的に励起状態をダンプするために、グレーティングペアを用いてパルス幅を1 - 50 ps (FWHM)程度に伸長し、ダンプ光として用いる。時間分解能の評価用試料としては、溶液中での蛍光寿命が蛍光寿命が知られていて、ストークスシフトの比較的大きな、STED顕微鏡等で用いられた実績のある分子の有機溶媒溶液を使用する。 波長400 nmの励起用光パルスと、励起光パルスに対して光学遅延を与えた誘導放出用光パルス(800 nm)を同軸に倒立型光学顕微鏡に導入し、対物レンズ(100倍、NA 1.35)で試料溶液に集光する。励起光及び誘導放出光を光学フィルターによりカットし、試料の蛍光のみをフォトダイオードあるいはCCDカメラによって検出する。2つの光パルスの試料への到達時間差dtをディレイステージによって制御する。2つのパルスが時間的に重なる時刻をdt = 0とし、dtを負から正まで変化させつつ、各dtにおける蛍光強度を記録する。この測定で得られた、dtに対する蛍光強度の時間変化に対して、解析モデルを用いて解析することで、蛍光減衰曲線と寿命を求め、文献値と比較する。またダンプ光のパルス幅を種々検討し、従来のTCSPC法を超える時間分解能を実現する。
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